平成17年度技術士第二次試験問題(原子力・放射線部門) ●原子力一般・経験論文・専門問題(放射線防護) 問題および択一正解 |
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択一問題
2-1 次の20問題のうち15問題を選んで解答せよ(解答欄に1つだけマークすること)。
2-1-1 次の項目は原子炉システム及び原子炉停止系の設計で考慮すべき制限事項である。このうち誤っているものを選べ。
(1) 燃料集合体には原子炉内における通常運転期間中に生じうる種々の因子を考慮しても、その健全性が損なわれないことが要求される。
(2) 炉心及びそれに関連する系統は、出力の振動が生じてもそれを容易に制御できることが要求される。
(3) 炉内の構造物破壊を制限するため、制御棒の最大反応度価値や反応度添加率が制限されるが、これには制御棒の挿入の程度や配置状態を制限する装置への依存は禁じられる。
(4) 制御棒による原子炉停止系には、高温状態及び低温状態において、最大の反応度価値を持つ1本の制御棒が炉外に引き抜かれて挿入できなくても、炉心を臨界未満にできることが要求される。
(5) 原子炉停止系には、高温待機状態又は高温運転状態から炉心を臨界未満にでき、かつ高温状態で]eの崩壊が始まるまでの期間で炉心の未臨界を維持できる少なくとも2つの独立した系が要求される。
正解は3
指針14. 反応度制御系
「制御棒の最大反応度価値」の評価に当たっては、原子炉の運転状態との関係で、制御棒の挿入の程度及び配置状態を制限するなど、反応度価値を制限する装置が設けられている場合には、その効果を考慮してもよい。
2-1-2 ここに或る原子炉システムがある。この原子炉における反応度のうち、温度上昇分である冖eff(温度)が0.04冖eff、核分裂生成物の蓄積分である冖eff(FP)が0.03冖eff、そして燃焼度補償分である冖eff(燃焼)が0.05冖effであった。
今、この体系を制御棒挿入系で0.01冖eff以上の来臨界度をもって原子炉を停止できるようにしたい。この時、制御棒の反応度価値の評価法に10%の評価誤差があるとした時、この制御棒系に持たせるべき設計上の最低の反応度価値はいくらになるか。次の中から選べ。
(1) 0.144冖eff
(2) 0.133冖eff
(3) 0.130冖eff
(4) 0.120冖eff
(5) 0.108冖eff
正解は1
(0.04+0.03+0.05)<(1−0.1)×(I−0.01) x>0.1433
2-1-3 次の文章は「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」の解説から引用したものである。
立地評価における「評価すべき範囲」は、「(ア)」と「仮想事故」であるが、 「(ア)」及び「仮想事故」を想定する目的は、対象となる原子炉と(イ)との離隔が適切に確保されていることを確認することである。最小限度必要とされる(ウ)は、当該原子炉の基本的構造、(エ)、その他の特性、安全防護施設(工学的安全施設)を含む安全上の対策等によって変化すべきものである。
文中の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)に記入する字句として適切なものの組合せを選べ。
(ア) (イ) (ウ) (エ) (1) 重大事故 防護柵 離隔距離 格納施設 (2) 外部事象 周辺の公衆 安全設備 格納施設 (3) 自然現象 防護柵 安全設備 出力 (4) 重大事故 周辺の公衆 離隔距離 出力 (5) 自然現象 防護柵 安全設備 格納施設
正解は4
http://www.nsc.go.jp/anzen/sisin/sisin008/si008_01.html 参照。
2-1-4 次の記述のうち、正しくないものを選べ。ただし、用語は「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令」によっている。
(1) 安全設備(原子炉格納容器を除く。)は当該安全設備自体又は当該安全設備が属する系統として、多重性を有するように施設しなければならない。
(2) 原子炉圧力容器の安全弁の容量の合計は、当該原子炉圧力容器の圧力をその最高使用圧力の1.1倍以下に保持するのに必要な容量以上であること。ただし、安全弁以外の過圧防止効果を有する装置を有するものにあっては、当該装置の過圧防止能力に相当する値を減ずることができる。
(3) 原子力発電所には、安全設備が設置されている施設に人が不法に侵入することを防止するため、適切な管理区域を設定しなければならない。
(4) 原子炉格納施設は、一次冷却系統に係る施設の故障又は損壊の際に生ずるものと想定される最大の圧力及び最高の温度に耐えるものでなければならない。
(5) 安全設備は、2以上の原子炉施設に併用するものとして施設してはならない。ただし、安全設備の能力、構造等から判断して原子炉の運転に支障を及ぼすおそれがないと認められるときはこの限りでない。
正解は3
(不法侵入の防止)
第七条の二 原子力発電所には、安全設備が設置されている施設に人が不法に侵入することを防止するため、適切な侵入防止措置を講じなければならない。
2-1-5 熱出力3、300MW、装荷ウラン量130トンの原子炉があるとする。この原子炉に装荷される燃料の平均燃焼度が44、000MWD/tUのとき、この燃料は原子炉内に平均何年滞在するか、次のうち最も近い答えを選べ。ただし、原子炉の設備利用率は80%とする。
(1) 7年 (2) 6年 (3) 5年 (4) 4年 (5) 3年
正解は2
44,000/3,300×130/365/0.8=5.9
2-1-6 次のうち、発電用原子炉の放射能を閉じ込める多重障壁としてふさわしくないものを選べ。
(1) 原子炉建屋
(2) 格納容器
(3) 圧力容器
(4) 制御棒
(5) ペレット
正解は4
被覆管
2-1-7 平成16年8月9日に発生した、美浜発電所3号機二次系配管破損事故についての次の記述のうち、誤っているものを選べ。
(1) 流量計オリフィスの下流近傍が破損した。
(2) 破損した配管は復水配管である。
(3) 破損の主な原因は、熱応力と考えられている。
(4) 破損箇所は15年以上にわたり、検査されていなかった。
(5) 破損箇所は検査の対象箇所であったが、見落とされていた。
正解は3
配管の肉厚が徐々に減少し、破損したと推定。
2-1-8 原子力発電所では行われていない放射性廃棄物の処理を次の中から選べ。
(1) 気体状の放射性廃棄物は、一時的にタンク内に貯めたり、フィルターや活性炭等による吸着などの方法で放射性物質を除去する。
(2) 液体状放射性廃棄物で、洗濯水など放射能レベルの低いものはイオン交換、ろ過などの方法で処理する。
(3) その他の液体状廃棄物は、放射能レベルに応じて、フィルターやイオン交換樹脂でろ過、脱塩あるいは蒸発濃縮、乾燥を行い、濃縮液はセメント等で固めてドラム缶に詰めて貯蔵する。
(4) 固体状廃棄物で、フィルター・スラッジ、使用済み樹脂等はセメント等で固めてドラム缶に詰めて貯蔵する。
(5) 使用済燃料から発生する高レベル廃棄物は、ガラス固化体の形にし、ステンレス製の容器に密封して貯蔵する。
正解は5
原子力発電所では行われていない。
「注意 C:フィルター・スラッジ、使用済み樹脂の場合 (1)貯蔵タンクに置いて減衰させ放射能を弱める。 (2)セメントなどで固めドラム缶の中で安定な形につめる。 (3)低レベル放射性廃棄物埋設施設の敷地内に安全に貯蔵。」
2-1-9 プルトニウムの特徴について、次の記述のうち誤っているものを選べ。
(1) 金属プルトニウムの融点は約640℃であり、金属ウランより高い融点を持つ。
(2) 常温から融点の間に6種の結晶構造に変態し、化学的にも活性でその毒性と相まって極めて特異な元素である。
(3) 溶液状のプルトニウムは、固体のプルトニウムよりも臨界になりやすく、その扱う物量、形状に注意を要する。
(4) プルトニウムは、主に使用済燃料を再処理することによって得られる。
(5) 241Puの半減期は、238U、235Uと比べて極端に短く、その比放射能は極めて高い。
正解は1
金属ウランの融点は1132 ℃
2-1-10 核燃料物質の加工の事業に関する規則及び使用済燃料の再処理の事業に関する規則において、事業者が貯蔵に関してとらなければならない措置についての次の記述のうち誤っているものを選べ。
(1) 核燃料物質の貯蔵は、貯蔵施設において行うこと。
(2) 貯蔵施設の目につきやすい場所に、貯蔵上の注意事項を掲示すること。
(3) 核燃料物質の貯蔵に従事する者以外の者は、貯蔵施設に立ち入ることが出来ない。
(4) 核燃料物質の貯蔵は、いかなる場合においても、核燃料物質が臨界に達するおそれがないように行うこと。
(5) プルトニウム又はその化合物の貯蔵は、プルトニウム又はその化合物が漏えいするおそれがない構造の容器に封入して行うこと。ただし、グローブボックスその他の気密設備の内部において貯蔵を行う場合その他プルトニウム又はその化合物が漏えいするおそれがない場合は、この限りでない。
正解は3
核燃料物質の貯蔵に従事する者以外の者が貯蔵施設に立ち入る場合は、その貯蔵に従事する者の指示に従わせること。
2-1-11 我が国の核燃料物質等の輸送に関する次の記述のうち誤っているものを選べ。
(1) 原子力発電所用濃縮六フッ化ウランは、耐圧、気密性を有する専用容器に封入され、A型輸送物(非核分裂性)として輸送される。
(2) 原子力発電用に六フッ化ウランから転換された二酸化ウランは、専用容器でA型輸送物(核分裂性)として輸送される。
(3) 原子力発電用の新ウラン燃料の輸送は、成型加工工場から原子力発電所まで、専用の輸送容器でA型輸送物(核分裂性)として、トラックによる陸上輸送又は海上輸送される。
(4) 原子力発電所から発生する使用済燃料は、放射性物質を多く含んでおり、また発熱を伴うので、通常原子力発電所内の使用済燃料プールで一定期間冷却した後、専用の輸送容器でBM型輸送物(核分裂性)として再処理工場まで海上輸送される。
(5) 原子力発電所で生じる低レベル放射性廃棄物を詰めたドラム缶は、特別に作られた専用の輸送容器で輸送されている。
正解は1
A型輸送物(核分裂性)として輸送
2-1-12 100万kWe級原子力発電所(PWR燃焼度40、000MWD/t)の核燃料サイクルの年間の物量の流れについての次の記述のうち、誤っているものを選べ。
(1) イエローケーキ、(精鉱)として約220ショートトンU308が必要である。
(2) 約4%濃縮ウランが約20トンU必要である。
(3) このため天然ウランとして約170トンUを必要とする。劣化ウラン(約0.25%)として約150トンUが発生する。
(4) 使用済燃料を再処理することにより、約0.2トンPu、約20トンUが生じる。
(5) 使用済燃料中のプルトニウムの同位体組成は、貯蔵しておいても変わらない。
正解は5
Pu-241の半減期は14.4年
2-1-13 次の工業利用機器のうち、中性子を利用しているものを選べ。
(1) レベル計 (2) 密度計 (3) 水分計 (4) 硫黄計 (5) 煙感知器
正解は3
水分計は、中性子線源(Cf−252)と検出部(He−3管)との間にある土中を通過してきた中性子を検出し、速中性子が熱中性子になる割合(または逆に速中性子のままの割合)を見ると、物質中の水素原子核の密度が推定できることから土中の水分量を測定することができる。
2-1-14 次の物質はいずれも放射線検出器として用いられている素材であるが、これらのうち、放射線による励起発光現象を利用した検出器として使用していないものを選べ。
(1) ヨウ化ナトリウム
(2) ガラス
(3) アルミナ(酸化アルミニウム)
(4) トルエン
(5) シリコン
正解は5
2-1-15 0.034Mエタノール水溶液を]線で10kGy照射したら、アセトアルデヒドが1.96mM生成した。このとき、アセトアルデヒドの生成のG値(100eV当たりに生成す る分子数)はいくらか。次の中から正しいものを選べ。ただし、1Jは6.24×1018eV、アボガドロ数は6×1023とする。
(1) 0.188 (2) 0.308 B1.88 (4) 3.08 (5) 3.76
正解は3
(1.96×10−3)×(6×1023)/(6.24×1018)/(10×103)×100=1.88
2-1-16 核医学診断としてポジトロン断層撮影接がある。この検査に使われるポジトロン放出核種の中で、半減期約110分のフッ素−18を除くと、半減期が約20分の(ア)や半減期約10分の(イ)や半減期約2分の(ウ)の3種類は、いずれも身体を構成している元素のアイソトープであり、このアイソトープを標識した化合物を使えば、身体の機能状態をそのまま画像として観察することが出来る。
上記記述中の(ア)、(イ)、(ウ)に記入する字句として正しいものの組合せを次の中から選べ。
(ア) (イ) (ウ) (1) 酸素−15 窒素−13 炭素−11 (2) 窒素−13 酸素−15 炭素−11 (3) 炭素−11 酸素−15 窒素−13 (4) 酸素−15 炭素−11 窒素−13 (5) 炭素−11 窒素−13 酸素−15
正解は5
2-1-17 60Co点線源 3.7×1012Bqを120cm厚のコンクリート遮へい壁のある施設で取り扱う場合、遮へい壁外側での実効線量率について次の中から正しいものを選べ。
ただし、60Co点線源から遮へい壁内側までの距離は500cmとし、線源と遮へい壁の間に遮へい物は存在しないものとする。なお、60Coの実効線量率定数を0.305(μSv・m2.MBq−1・h−1)とし、コンクリート120cm厚の60Coの実効線量透過率を1.81×10−5とする。
(1) 0.53μSv.h−1
(2) 0.82μSv.h−1
(3) 5.3μSv・h−1
(4) 8.2μSv・h−1
(5) 9.6μSv・h−1
正解は1
0.305×(3.7×106)/(5+1.2)2×(1.81×10−5)=0.531
実効線量の透過率は、しゃへい体がない場合の実効線量に対するしゃへい体がある場合の実効線量の比で定義される。
2-1-18 ICRP(国際放射線防護委員会)の1977年勧告では、組織荷重係数が示されていなかったが、1990年勧告で提示された組織について次の中から正しいものを選べ。
(1) 生殖腺 (2) 骨表面 (3) 肺 (4) 甲状腺 (5) 食道
正解は5
2-1-19 体内汚染の場合に、体内にほぼ均等に分布すると放射線防護上考えられている核種を次の中から選べ。
(1) 90Sr(炭酸塩)
(2) 60Co(酸化物)
(3) 137Cs(塩化物)
(4) 239Pu(酸化物)
(5) 131T(カリウム塩)
正解は3
臓器に蓄積する放射性同位元素
32P, 226Ra, 239Pu, 90Sr 骨 →骨髄腫瘍, 白血病
232 Th 肝臓,骨髄 →肝臓ガン,白血病
99m Tc 甲状腺
125 I, 131 I 甲状腺
198 Au 肝臓
203 Hg 腎臓
137 Cs, 40 K 全身
2-1-20 世界における大地からのバックグラウンド放射線による代表的な年間の実効線量について、次の中から正しいものを選べ。
(1) 0.3〜0.6μSv
(2) 3〜6μSv
(3) 0.03〜0.06mSv
(4) 0.3〜0.6mSV
(5) 3〜6mSv
正解は4
宇宙線から 0.39mSv
大地から 0.48 mSv
食物から 0.29 mSv
ラドンなどの吸入 1.26 mSv
合計 2.4 mSv
記述問題
2-2 次の3問題のうち、下表(番号表)に指定された選択科目に対応する2問題について解答せよ。(青色の答案用紙を使用し、問題ごとに用紙を替えて解答問題番号を明記し、それぞれ1枚以内にまとめよ。なお、青色の答案用紙綴りは3枚組となっているが、解答には1枚目及び2枚目の用紙のみを使用し、3枚目の用紙は白紙で提出すること。)
選択科目に対する問題の番号表
選択科目 | 解答する2問題の番号 |
20−1 原子炉システムの設計及び建設 | 2−2−2、 2−2−3 |
20−2 原子炉システムの運転及び保守 | 2−2−2、 2−2−3 |
20−3 核燃料サイクルの技術 | 2−2−1、 2−2−3 |
20−4 放射線利用 | 2−2−1、 2−2−2 |
20−5 放射線防護 | 2−2−1、 2−2−2 |
2−2−1 次の3設問のうち1設問を選んで解答せよ。(解答設問番号を明記すること。)
(1)軽水型原子力発電所(BWR、PWR)システムを構成し、通常運転時に使用する主要な5設備を取り上げて、その名称及び機能を簡潔に述べよ。
(答案例)
原子炉機器(PWR)の原理と構造
<概要>
原子炉および一次冷却系設備は原子力蒸気供給システム(NSSS)と呼ばれ、炉心で発生した熱で冷却水を加熱し蒸気発生器を介して高温高圧の蒸気をタービンに供給する。炉心を構成する燃料棒は核反応で発生する熱を冷却材に伝えるとともに、核分裂生成物を内部に閉じ込め第一のバリアとなる。蒸気発生器及び一次冷却材ポンプは炉心より熱を取り出す重要な機器であるとともに、蒸気発生器伝熱管および一次冷却材ポンプの軸シール部は一次冷却材圧力バウンダリーとして重要である。一次冷却材圧力バウンダリーの一部が破損し、さらに核分裂生成物のバリアが破損する事故を想定して、非常用炉心冷却設備および原子炉格納容器が設備されている。
これらプラント機器の運転状態および安全系設備の待機状態は中央制御室の制御盤に集められ、プラントは集中的に監視・制御される。
<本文>
原子炉および一次冷却系設備は高温高圧の蒸気をタービンに供給するシステムであり、発電プラントにおいて原子力蒸気供給システム(Nuclear Steam Supply System)と呼ばれている。主蒸気・タービン系統図を 図1 に示す。PWRが蒸気発生器を介してタービンに供給する蒸気は、タービン入口で約273.9℃、約59.7kg/cm2gの高い熱エネルギーを持ち、エネルギーの一部はタービンで回転運動に変換され、さらに発電機で電気に変換される。タービンより排気された蒸気は復水器に入り、海水が通っている多数の伝熱管の表面で冷却されて水になり(復水)、給水加熱器を経て給水ポンプで蒸気発生器に戻される。復水器で蒸気を冷却した海水は温排水となって海へ排水される。タービンが蒸気のエネルギーを回転運動に変換する効率は理論的にタービンに入る蒸気温度と復水器に排気される蒸気温度の差によって決まる。PWRでは火力プラントと同じような高温蒸気を供給できないので熱効率は火力プラントより若干低くなる。発電プラント全体の熱効率は、例えば電気出力118万kWの発電所では原子炉が供給する熱エネルギーは342万kWであるので34.5%となる。
<燃料集合体>
この熱エネルギーを発生する炉心の大きさは有効高さ約3.66m、等価直径約3.37mで、その出力密度は約105kW/リットルである。炉心を構成する燃料棒にはウランを酸化物(UO2)とし、これをペレット状に焼き固め、さらにジルコニウム合金管に封入したものが使用される。UO2ペレットは核反応で生成する核分裂生成物(Fission Products)を閉じ込め、構造的にも強度が強く、熱伝達特性も優れている。PWRの燃料被覆管材として使用されているジルコニウム合金はジルカロイ−4と呼ばれ、ジルカロイ−2からニッケルを除いた合金であり、ジルコニウムと高温の冷却水が反応して発生する水素のジルカロイ合金への取込みを減少させたものである。UO2ペレットは、燃焼中被覆管を内側から押し広げ、また、核分裂生成物はジルカロイ−4の腐食環境をつくる。このような状況下でPCI(Pellet−Cladding Interaction)により燃料被覆管は応力腐食割れを起こすおそれがあり、各種の対策がとられている。
燃料棒を四角格子の束に組み(例:17×17)、上下にノズルを取り付けたものを燃料集合体という。PWRの燃料集合体には、BWRのような燃料チャンネルボックスがなく、燃料の下部から入った冷却水は隣の燃料集合体と相互に流通している。一方、外径寸法の異なる燃料は混存させることができない。14×14および15×15型の燃料集合体も現在使用されている。120万kW級の炉心には193体の燃料集合体が装荷されている( 図2 )。
<制御棒>
燃料には濃縮度約3.4%の濃縮ウランが使用されている。この濃縮度は燃焼の継続、核分裂に伴って発生するXeやSmに対応するために必要な余剰反応度を確保するためのものである。この余剰反応度を制御する制御棒には熱中性子吸収断面積の大きな銀(Ag,63バーン)、インジウム(In,196バーン)、カドミウム(Cd,2450バーン)の合金が用いられる。Ag−In−Cd合金制御材はそれぞれの元素の核特性の欠点を補い、全体としてバランスのとれた特性を有している。PWRではこの制御材をステンレス鋼製の管に充填して使用している。更に、PWRではホウ酸を水溶性の反応度制御材として減速材中に混入して使用している(ケミカルシム制御:図2)。
<原子炉容器>
120万kW級の原子炉容器の大きさは高さ約12.9m、内径約4.34mである。鋼材には主として強度上の理由から低合金鋼にステンレス鋼を内張りして用いているが、運転中に中性子照射を受けるため照射脆化に対する抵抗力を持つことも要求される。最近の鋼材は鋼材中の銅およびリンが低減されており、中性子照射脆化に対する抵抗力は十分高いことが確認されている。鋼材の脆化の度合は監視試験片をあらかじめ圧力容器内に挿入しておき、これを定期的に取出してシャルピー衛撃試験によって評価されている。原子炉一次冷却系の配管には破断事故を防ぐため特に靭性の高いものが用いられる。PWRでは遠心(連続)鋳造管が広く用いられている。これはオーステナイト系の中に適当なフェライト相を分散させたもので、耐応力腐食割れにも優れている(図2)。
<蒸気発生器>
一次冷却水(約325℃、約157kg/cm2g)からタービン駆動用の蒸気(タービン入口で約273.9℃、59.7kg/cm2g)を発生する蒸気発生器はメーカによって型式が異なるが、U字型管を使った竪型が代表的である。蒸気発生器の伝熱管は一次冷却材圧力バウンダリーを構成する管として重要である。伝熱管材料は腐食損傷を防止するため、従来のインコネル600から鋭敏化回復処理を施したTTインコネル600、あるいはより耐食性に優れたTTインコネル690が広く用いられている( 図3 )。
<一次冷却材ポンプ>
蒸気発生器で二次側に熱を与えた一次冷却水は流量20,100 t/hの一次冷却材ポンプによって原子炉容器に戻される。このポンプでは軸部のシールが冷却水を外部へ漏洩させないような構造となっている。シール部はNo.1からNo.3シールと3段構えのシール構造を採用している。No.1シールが主シールで特殊な非接触形の漏洩制御式のシールである。このシール部には充填ポンプにより一次冷却水と同じ水質のシール水を一次冷却材の圧力より少し高くして注入し、その一部が静止リングと回転リングのシール面を一定流で流れ元の系に戻される。残りは下方に流れてポンプベアリングの冷却および潤滑を行なったのち、一次冷却材中に流入する。No.2シールとNo.3シールは通常のメカニカルシールと同じである( 図4 )。
<原子炉格納容器>
PWRの原子炉格納容器はドライ型である。120万kW級の原子炉格納容器は従来と同様の炭素鋼製とすると高さが100mを超える格納容器となるため、プレストレストコンクリート製(PCCV)やアイスコンデンサ型として格納容器の小型化を図っている。また、冷却材喪失事故時の緊急の原子炉冷却に対処するため非常用炉心冷却などの設備(ECCS)が原子炉建屋に設置されている。
<中央制御室>
原子力蒸気供給システムの温度、圧力、流量、水位などのプロセス量はもとより炉心の中性子束レベル、機器の運転・待機状態および環境の放射線レベルなどの測定値は総て中央制御室に集められている。各系統の運転制御のための制御盤には操作スイッチ、制御装置などが配置され、さらに計算機で処理した出力がCRTに表示されている。これらは運転員が系統の状態を正確に把握し適切な操作が行なえるようマンマシンインターフェースを考慮して設計されている。また、計算機は発電所の起動・停止操作を系統的に管理制御するなどの運転支援にも活用されている( 図5 )。
(PWR)
一次冷却材ポンプ
一次冷却材を循環させるポンプ。蒸気発生器を通過した一次冷却水はループシールと呼ばれる配管の立ち下げ部分を経た後、一次冷却材ポンプにより原子炉容器に戻される。一次冷却材ポンプには漏洩制御軸封形の電動機駆動縦置単段斜流ポンプが用いられており、一次冷却材はその下部より吸引された後、インペラにより加圧され、ディフューザーを経て側面より吐出される。電源喪失時に炉心に十分な冷却材を供給するために、ポンプのコーストダウンが長くなるよう、一次冷却材ポンプを駆動する電動機にはフライホイールが取り付けられている。原子炉冷却材ポンプとも呼ばれる。沸騰水型原子炉では再循環ポンプのことをいう。
蒸気発生器
蒸気を発生させる装置。加圧水型原子炉では、原子炉炉心で加熱された高温高圧水(圧力約15MPa、入口水温約320゜C)を、多数の伝熱管を介して2次側の水(圧力約6MPa、入口水温約220゜C)と熱交換して蒸気を発生させている。得られた蒸気は、気水分離器、湿分分離器により湿分を分離したのち発電機のタービンに供給されている。伝熱管の配置方法により、U字管型、直管型、ヘリカルコイル型などの種類がある。
加圧器
加圧水型原子炉(PWR)の運転時に、高温の一次冷却水を未飽和状態に維持すると共に、炉容器内水位を保持するための立置円筒形容器である。この容器底部と一次冷却水の高温側配管が加圧器サージ管で結ばれている。加圧器は、液浸型電気ヒーター、スプレイノズル、逃し弁、安全弁等を備え、運転中加圧器の水位は容積の約60%に保持され、電気ヒーターで昇温し蒸気を発生することにより加圧する。また、圧力が過大となると、一次冷却水の低温側配管からの低温水をノズルからスプレイし蒸気を凝縮することにより圧力を下げ運転圧力を維持する。さらに、一次系圧力がスプレイによる圧力抑制の範囲を超えると、逃し弁、安全弁から蒸気を加圧器逃しタンクに放出し運転圧力を維持する。
化学体積制御系
加圧水炉において、化学体積制御設備(化学体積制御系)は、一次冷却材の一部を一次冷却材低温側配管から抽出し、充てんラインを経て、他の一次冷却材低温側配管に戻す回路を構成する。
再生熱交換器、体積制御タンク、ホウ酸タンクなどの機器、配管、弁類等から構成され、一次冷却設備に対して、(1)一次冷却材保有量を適正に調整する。(2)反応度制御のため、一次冷却材中のホウ素濃度を調整する。(3)一次冷却材中の核分裂生成物、腐食生成物等の不純物を除去し、一次冷却材としての水質を維持する。(4)一次冷却材中に腐食抑制剤を添加し、その濃度を適正に保つ。(5)一次冷却材ポンプの軸封水を供給する。などの機能を有する。
復水器
蒸気タービンで使用した蒸気を、冷却水との熱交換によって冷却凝縮し、水に戻す装置をいう。回収された復水は、BWRの場合は原子炉へ、PWR、高速炉等2次系のあるプラントでは蒸気発生器に戻される。冷却には原子プラントの場合約250kg/kWhの多量冷却水が必要であるが、わが国では海水が使われている。冷却管は25〜32mm程度の外径で、13〜18mの長さをもつ多数の冷却管の内部を流れ、管外で凝縮する。復水器と脱気器を合わせて復水系という。
(2)原子炉は、通常運転時においては、負の反応度温度係数を持っている。反応度温度係数における、(a)ポイド効果、及び(b)ドップラー効果について説明せよ。
(答案例)
ボイド反応度
反応度のボイド効果のことである。液体減速及び液体燃料の原子炉の炉心内において、沸騰その他の原因によるボイド(気泡)の発生あるいはボイド量の変化が反応度に及ぼす効果。ボイド量は減速材の流量、液体燃料の密度、圧力などに影響し、これらの物理量の変化に伴って中性子の減速吸収、漏れの量が変化する。ボイド量の変化に伴う反応度の変化率をボイド係数といい、原子炉の安全性や安定性に関して重要な量である。ボイド係数は炉心構造、減速材や燃料の種類により大きく変わるが、原子炉の設計では、通常運転状態で適度に負の値をとるように設計および運転する。負の絶対値が大きすぎると出力不安定の原因となる。
ドップラー効果
Doppler effect. 中性子と原子核との相互作用は、両者が接近する相対運動のエネルギーに関係する。物質中の原子核は熱運動をしているので、単一エネルギーの中性子ビームと物質中の原子核の相互作用のエネルギーは一定ではなく広がったものとなる。このエネルギーの広がりは、物質の温度が高いほど、大きくなる。ドップラー効果とはこのように物質の熱運動により原子核との相互作用のエネルギーが広がり持っていることに起因する効果である。核燃料に含まれるウラン238などの非核分裂性の核種は核燃料の温度上昇と共に相互作用のエネルギーが広がって(共鳴吸収の増加によって)中性子を多く吸収するようになり、炉心での反応度が低下する。
別の物理現象では、光源や音源などの波源と観測者が波の伝播速度より小さい異なる速度で運動しているとき、波源の振動数と観測される振動数にずれが生じる現象である。
(3)原子力発電所の、セイフテー・カルチャーを醸成するために必要なことを述べよ。
(答案例)
セイフティーカルチャーとは、チェルノブイル原子力発電所の事故後に、IAEAの国際原子力安全諮問委員会(INSAG)が提唱したもので、原子力開発に携わるすべての個人、組織が常に安全に関する意識を最優先にもって行動することを求めた思想。
事業者は、保有する原子力施設の安全確保について第一義的責任を有していて、立地地域の住民や施設で働く人々の安全確保のために必要な業務を誠実に遂行することが求められている。このため、事業者は安全基準にしたがって、安全確保活動を最も効果的な方法で計画・実施し、その結果について見直し、更に改善するべき点が無いかどうかを必要に応じて外部の有識者の意見も踏まえて検討することにより、常により効果的な安全確保活動を行うように努力していかなければならない。これを可能にするためには、まず、管理する経営層(トップマネジメント)が協力会社を含む組織全体において「安全確保活動を最優先」する価値体系を確立する必要がある。これにより組織全体において安全文化を確立することが可能となる。
2−2−2 次の3設問のうち1設問を選んで解答せよ。(解答設問番号を明記すること。)
(4)核燃料サイクルの経済性について述べよ。
(答案例)
核燃料サイクルの経済性
原子炉の燃料となるウランは、鉱山で採掘された後、原子炉で使用されるまでに、様々な化学的、機械的加工が行われる。また、原子炉で使用された後も再処理することにより、核分裂性物質を抽出し、これを再び核燃料として利用する。このような一連の循環過程を核燃料サイクルという。
プルサーマルにより核燃料サイクルを実施した場合の原子力発電コストは、再処理、高レベル放射性廃棄物処分、廃炉などの経費を含めても、火力発電などの他の電源に比べて低くなる。一方、直接処分の場合は再処理費用が不要であることから、発電コストが2〜3%程度低減する。しかしながら、長期的な観点からエネルギー安全保障、エネルギー資源の有効利用、環境適合性及び安全確保など、経済的に見積もり難い要素などを考慮して総合的な観点から政策を選択することが重要である。再処理を含むバックエンド事業は、超長期間に及ぶことから、将来見通しやコストの算定が必ずしも正確に出来ないこと、また、高速増殖炉による核燃料サイクルについても、現在、研究開発段階にあり、実用段階でのコストの算定はまだ困難、電気事業者が原子力発電の新増設を選択しないとすれば、原子力推進と電力自由化が相容れなくなる状況にある。将来想定される費用などに関して十分に情報開示を行いつつ、電力自由化が進む中で、原子力発電及び核燃料サイクルを円滑に進めていくため、関係者は共通の事実認識に立って議論していくことが必要である。
(5)ウラン濃縮法について述べよ。
(答案例)
ウラン濃縮法は、天然ウラン中の燃えるウラン(ウラン−235)が 0.7%と燃えないウラン(ウラン−238)が99.3%の比率から、燃えるウラン(ウラン−235)の含有率を3〜4%位に高めるために行う方法をいう。
これらウラン同位体は、ほとんど物理的にも化学的にも同じ性質を持っているが、わずかな違いを見出して、ウラン濃縮法の開発がなされてきた。すなわち、ウラン同位体であるウラン−235とウラン−238との質量差を利用する方法として、微細穴を透過するときの拡散速度の違いを用いる「ガス拡散法」、遠心力の場で質量差による違いを用いる「遠心分離法」、電磁場で質量差による違いを用いる「電磁法」およびノズルから吹き出す速度差を利用する「ノズル法」等が考え出された。また化学的に酸化還元時に反応差を利用した「イオン交換法」、光化学反応速度差を利用した「光化学的分離法」等がある。最近、レーザー光線を照射して分離する「レーザー法」が考え出された。これらは分離され易いように気体が使用され、六フッ化ウランを使用する方法がほとんどであるが、金属ウランを高温にした蒸気を使用する「原子レーザー法」もある。また塩酸ウラン溶液を使用するイオン交換法が開発されている。
現在、工業的に行われているのは「ガス拡散法」と「遠心分離法」であり、他の方法は実験室規模からパイロットプラントまでの色々の段階にあり、開発内容は機密措置が取られて不明である。米国とフランスを初めとする四ケ国共同はガス拡散法で、英国、西独とオランダの三国共同プラントは遠心分離法である。わが国は遠心分離法による開発を行ってきており、商業ウラン濃縮工場は平成4年3月より一部操業運転を開始している。
最近、「レーザー濃縮法」が注目を集め、従来の方法より経済的に有利であるとの予想で、各国とも鋭意開発を進めている。このレーザー法には、金属ウランを気化させた蒸気状態でレーザー光線を与えて分離する「原子法」と六フッ化ウランの気体にレーザー光線を与えて分離する「分子法」とがある。
これらウラン濃縮法は原理は判っているが、用いる装置とその輸送手段を含めたシステムには各国の独自の技術が利用され、厳重なる機密保持が行われ、技術交流はない。その上、わずかな性質の差を利用し、1段での濃縮ではわずかに濃縮したものしか得られないので多くの段数の装置を組み合わせる。装置の性能とシステムの組み方による違いによって製品の価格が違ってくる。したがって、コスト評価が行われ、内容は機密でも、低コスト化が行われているのが現状である。このコストは発電コストへの影響が大きく、エネルギー経済、さらには国家の経済性にも大きく影響することになる。
このように国の経済を左右する原子力発電に使用する低価格の濃縮ウランを確保することは、エネルギー問題解決には不可欠なものとなる。他国に依存することからの脱却のため、フランス、英国、西独およびオランダが行ったように、わが国自体が管理できるプラントを持ち、多角的供給源によっての安定供給の確保と価格の安定をはかり、わが国の安全保障が保たれることになる。
(6)核燃料サイクル技術と核不拡散について述べよ。
(答案例)
核不拡散
わが国は、「核兵器を持たず、作らず、持ち込まず」の非核三原則を遵守し、原子力基本法に則り、原子力の利用は厳に平和目的に限っている。そのための国際的な担保として、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)を締結し、そのもとでIAEAの保障措置を受けるとともに、IAEA追加議定書を締結し、併せて、厳格な核物質防護措置を講じている。この原則を守っていくことにより、プルトニウム利用については、核不拡散上の問題がないものと考えられる。さらに、プルトニウム平和利用に対する国内的及び国際的な懸念を生じさせないよう、原子力委員会は「利用目的のないプルトニウムを持たない」との原則を示し、政府によるプルトニウム管理状況、事業者のプルトニウム利用計画の公表など,プルトニウム利用にかかわる積極的な情報発信を進め、プルトニウム利用の透明性の向上を図ってきている。
2−2−3 次の3設問のうち1設問を選んで解答せよ。(解答設問番号を明記すること。)
(7)放射線を利用した微量元素分析法として使われている手法を1つ挙げ、その原理と利用方法について述べよ。
(答案例)
微量元素分析
極微量の物質あるいは不純物の分析には、「蛍光X線分析」、「放射化分析」が数多く利用されている。前者ではX線を金属元素に当てると元素固有の蛍光X線が発生することを利用しそのスペクトルを測定して、ほとんどの金属を同定することができる。この放射線源としては、高輝度の放射光や走査型X線顕微鏡が利用される。後者の放射化分析は、多元素同時分析が可能な分析法であり、熱中性子を照射したのち若干の冷却期間をおいて試料から放出されるガンマ線のスペクトルを測定する。物質の構成元素や物質中に取り込まれた極微量の不純物元素などを調べることもできるが、フッ素以上の重い元素(原子量19以上)が対象である。そこで、通常の放射化分析では困難な軽元素成分や硫黄やリンのように放射化してもガンマ線を放出しない元素の分析には、半減期の極めて短い核種からのガンマ線スペクトルを測定する中性子捕獲即発ガンマ線分析法が利用されている。これらの場合の中性子源は、主として原子炉からの熱中性子および冷中性子ビームを用いる。
なお、放射化分析技術は1936年に米国で試みられたのが最初とされ、原子核反応の利用という原理の斬新さ、他に類を見ない高感度の点から画期的な分析法として注目された。その後、強力熱中性子源としての原子炉の普及、照射技術の開発・拡充、原子核反応生成物からの放射線を検出するGe(Li)半導体検出器の発明等があり、高分解能ガンマ線波高分析器の進展とともに、放射化分析技術は著しい進歩を遂げ現在に至った。
ここで法科学における犯罪関連の対象物件と放射化分析で検出できる元素を 表1 に示す。
最近、放射線の検出感度が大きく向上し一般的な放射化分析でもμg(10**−6g)からpg(10**−12g)単位の超微量元素を定量できる。 図1 に、種々の定量分析法の有用な濃度範囲を示す。放射化分析法は、10**−6%以下まで測定範囲があり、1mgの試料があれば十分であることが分かる。それでも自然界に存在する約100元素のうちほぼ60元素近くがこの方法で測定できるに過ぎない。そこでこれをカバーするためには中性子捕獲即発ガンマ線分析法が利用され、軽元素の分析に威力を発揮している。例えば、爆薬はC,H,O,N,といった原子番号の小さい軽元素だけから構成されている( 表2 )。そこで、原子炉、加速器あるいはRIを用いて発生させた冷中性子、熱中性子、あるいは速中性子を対象とする分析試料に照射し、即時に出てきた半減期の極めて短い即発ガンマ線のスペクトルを測定することにより上述の軽元素成分比を求めて、爆薬の識別を行うことができる。爆薬以外に、軽元素で構成されているプラスチック類、繊維類も識別できる
(8)放射線は、厚さ計、密度計、水分計、非破壊検査に広く使われている。その中から1例を選んで、原理と具体的な利用方法を図解して説明せよ。
(答案例)
〇厚さ計
厚さ計は工業における最も代表的な放射線応用計測器であり、なかでも、β線(ベータ線、電子線)の透過を利用した紙またはプラスチックフィルムの厚さ計、およびγ線(ガンマ線)の透過を利用した鋼板厚さ計は典型的なものと言えよう。紙厚さ計は、製紙工程において水を含んで高速走行する紙の乾燥重量厚さ(坪量)を高精度で計測する(水分量はふつう赤外線透過率で測定し補正する)。β放射体を使い分けることによって、およそ10〜5000g/平方メートルの重量厚さの計測ができる。密封線源は、重量厚さの薄いものからKr−85,Pm−147,Sr−90が用いられる。
鋼板厚さ計の例では、赤熱した圧延中の厚板(4.5〜100mm厚さ)に対し、1.11TBq(30Ci)のCs−137γ線の透過を利用して、±0.05%(または10μm)の高精度(10msの応答)の計測ができる。8mm厚さ以下の冷延工程の鋼板等に対しては、Am−241のγ線およびX線(エックス線)発生装置のX線の透過が利用されている。
以上の透過型の厚さ計のほかに、β線、γ線の後方散乱を利用する散乱型厚さ計、および2次的に発生する特性X線を測定する蛍光X線厚さ計がある。後者は特にメッキ工程でのメッキした厚さのオンライン計測等に使用されている。密封線源は、Am−241が用いられる。
〇密度計
測定対象の厚さが一定のとき、厚さ計と同じ原理すなわち放射線の透過又は散乱を利用して見かけ密度の測定ができる。厚さが大きくなるほど、透過力の大きい高エネルギーのγ線が用いられる。工業分野では、パイプ中を流れる流体(スラリー等を含む)の密度をパイプを通して透過型で測定するものが多い。たばこ量目制御装置は、Sr−90のβ線の透過を利用して、紙巻たばこの詰まり具合を計測制御するもので、一種の密度計と考えられる。資源探査、地質検査および土木分野での地盤調査などでしばしば用いられる地下検層においては、γ線のコンプトン散乱が多く利用されている。密封線源は、Cs−137,Co−60が用いられる。Am−241装備の密度計は、航空機のオイルゲ−ジに利用されている。
〇水分計
中性子の散乱による減速および透過減弱の度合は、水素の場合他の元素に比し著しく大きい(単位質量当り)ので、減速されて生じる熱中性子の数の測定あるいは高速中性子の透過率の測定によって、物質中の水素または水分量を知ることができる。水分計の大多数は、製鉄所において溶鉱炉へ装入するコークスおよび焼ホッパーの壁面あるいは挿入孔で計測するものである。密封線源は、Am−241/Be,Cf−252の中性子源が用いられている。
この他に、3.7MBq以下の微小線源(Cf−252中性子源とCo−60γ線源)を用い、土木建設分野で盛土の締め固め度を現場計測するために水分・密度を同時測定するものがあり、数百台普及している。
〇非破壊検査
非破壊検査に用いる放射線にはX線、γ線、中性子線などがある。X線装置およびγ線源が放射線透過試験(ラジオグラフィ)用として広く使用されている。X線源としては、通常のX線管のほか、高エネルギーX線発生源として電子加速器が用いられる。γ線源としては、放射性同位体イリジウム−192および同コバルト−60が多く用いられ、薄肉配管等の検査にはイッテルビウム−169が使用されている。中性子線は水素含有物質や核燃料物質等の、X線、γ線では検査が難しい試験体の非破壊検査にも威力を発揮する。このような場合には原子炉、粒子加速器および放射性同位体(主としてカリホルニウム−252線源)を中性子源とする中性子ラジオグラフィが利用されている。
1.はじめに
工業用非破壊検査の重要な方法の一つである放射線透過試験(ラジオグラフィ)において、広く用いられている放射線は、X線、γ線および中性子線である。X線、γ線はいずれも波長の短い電磁波で、金属体を透過し、その内部の欠陥・異常を検出する能力に優れているため、主として鋼板や鋼管の溶接部などの健全性検査、食品中の異物混入検査などに用いられる。波長が短いほど(すなわち高エネルギーになるほど)透過能力が大きくなるので、検査対象物の厚さに応じて、適当なエネルギーのX線またはγ線源が選ばれる。一方、中性子線は電荷を持たない粒子線で、水素含有物質や核燃料物質等、X線、γ線では検査が難しい対象物の非破壊検査に威力を発揮するため、種々の中性子源が用途に応じて使用されている。以下に各種線源とそれらを用いる装置の概要について述べる。
2.線源および装置
2.1 X線
2.1.1 X線源
通常の工業用X線源は、X線管、高電圧発生器および制御器からなる。X線管の陰極フィラメントを加熱して熱電子を放出させ、陰極陽極間に高電圧を与えると、電子は陰極から陽極の方向に引き付けられ加速されるため、電圧に対応した大きな運動エネルギー(例えば、電圧100kVのとき100keV)を持って陽極のターゲットに衝突する。このときエネルギーの大部分は熱に変わるが、一部はX線となって照射口から放射される。電子が衝突する場所、すなわちX線が発生する場所を焦点という。X線管の構造例を
図1 に示す。同図内で下方に放射されるX線束の実効焦点(実効的な線源寸法)Bが小さいほど解像度のよい鮮明なX線透過像が得られる。放射X線は、上記の電子運動エネルギーを最大値とする連続的なエネルギー分布をしている。
これら通常のX線および後述のγ線より透過力の大きい高エネルギーX線源が、圧力容器など大型構造物の溶接検査等に必要となり、もともとは原子核物理学の研究用に開発された粒子加速器が工業分野にも応用されるようになった。近年、非破壊検査用の高エネルギーX線装置として実用化・普及にもっとも成功したのは、電子線型加速器(ライナックまたはリニアックともいう)である。すなわち、高周波の電場の変化を巧みに利用して直線状の加速管内で電子を高エネルギーになるまで加速した後、金属ターゲットに衝突させ、X線を発生させるものである。
2.1.2 X線装置
通常型X線装置には、X線管、高電圧発生器、制御器が分離されている据置式と、X線管、高電圧発生器が一体となり、一つの容器に収納されている携帯式とがある。据置式は冷却系が別途に設けられており、長時間安定したX線が得られるが、移動使用は難しい。他方、携帯式は現場での移動使用に適しているが、長時間連続照射には適していない。管電圧は携帯式でふつう70〜300kV(鉄の数mm〜60mm厚さの検査に適用可:比重の小さい物ではその比率で厚いものに対応)、全体的には10〜450kV(いずれも交流ピーク値)の装置が使用されている。
電子線型加速器ライナックを用いた高エネルギーX線装置(ヘッド、電源キュービクル、制御盤からなる)のヘッド部の構造例を
図2 に示す。中央の加速管を左から右へ加速されながら走行した高速電子の線束が、Qマグネットで集束され、ターゲット内でX線に変換され、生じた高エネルギーX線は右方に放射される。電子エネルギーで4〜12MeVの装置が多く使われている。
2.2 γ線
2.2.1 γ線源
放射線透過試験用のγ線源としては、
表1 のような放射性同位元素(放射性同位体、ラジオアイソトープ、RI)がある。γ線のエネルギーが対象とする試験体に適し、かつ、できるだけ小さい実効線源寸法で、大きい放射線出力の得られる(比放射能が高い)ものが望まれ、RIとしてイリジウム−192およびコバルト−60が多く用いられてきた。表1のRIは、セシウム−137(ウランの核分裂生成物)以外は、すべて、それぞれ同じ元素の単体金属または酸化物を原料として、原子炉内で熱中性子照射し、放射化反応によって生成されたものである。生成されたRIは金属カプセルに封入し密封線源として利用される。これらのγ線源は、一般に、前述のX線源に比し外形寸法が著しく小さく、細い管内や狭い隙間に線源を挿入できること、駆動電力が不要で移動性に富んでいることなどの特徴を有している。
(1)イリジウム−192(表1参照)
半減期は比較的短い(73.8日)が、多数の異なるエネルギーのγ線を放出し、その実効エネルギーが400keVと適当であるため、広範囲に使用され、最も代表的な非破壊検査用γ線源として民間企業では647台(2004年3月)の検査装置に使用されている。
(2)コバルト−60(表1参照)
γ線の実効エネルギーがイリジウム−192より約3倍高いので、比較的厚物の鋼材・構造物などの検査に民間企業では143台(2004年3月)が用いられている。
(3)イッテルビウム−169(表1参照)
近年、薄肉小口径配管溶接部等の現場、とくにX線装置が使用できない場所での検査に最適の低エネルギーγ線として開発され、その利用・普及が進んでいる。英国の再処理工場建設時に開発・使用された線源である。細管の溶接箇所が数多くある六ヶ所村の再処理工場建設現場で非破壊検査線源として採用された実績がある。
(4)セレン−75(表1参照)
半減期がイッテルビウム−169やイリジウム−192に比べて長く(120日)、実効エネルギーがイッテルビウムとイリジウムの中間にあるため、欧州ではイッテルビウムよりも普及している。他のものと比べて比放射能の高い線源を製造し難いのが欠点である。
2.2.2 γ線装置
γ線装置では、RI線源の特徴を活かし、線源を容器からフレキシブルワイヤなどで容器外の所定の照射位置まで繰り出し、全方向パノラマ照射をできるようにしたものが多い。比較的高線量の線源を用いた線源固定式の装置では、シャッターの開閉により、単一方向あるいは2π方向照射ができるようになっている。
γ線装置の線源容器は、貯蔵容器および輸送容器を兼ねているので、遮へい能力の十分な厚さの鉛でつくられている。携帯式のものでは比重の高いタングステン合金を使用して小型・軽量化されているものが多い。その例を
図3 に示す。3〜5mのフレキシブルなパイプ(伝送管)を左側、5〜10mのワイヤレリーズ誘導管(操作管)を右側の各接続口に取り付け、遠隔操作により線源を照射位置まで送り出すことができる。
2.3 中性子線
2.3.1 中性子線源
ラジオグラフィに用いる中性子源としては、原子炉、加速器およびRIがある。原子炉は最も強い中性子源であり、良質の熱中性子ビーム(冷中性子、高速中性子の場合もある)が得られるが、試験体の施設内への持ち込み、ラジオグラフ撮影後の持ち出しに制限があることが多い。加速器の場合は、陽子または重陽子ビームをベリリウムあるいはトリチウムのターゲットに衝突させ、核反応で生じた高速中性子を、通常熱中性子まで減速して使用する。中性子源としては原子炉に次いで強く、小型の装置では移動可能なものもある。RI中性子源は中性子線強度が低いが、移動性に富み、操作も簡単であるという特徴を有する。RIでは、カリホルニウム(Cf)−252線源が最も強い中性子源で、中性子に随伴するγ線があまり強くない利点もあり、とくに海外において比較的多く用いられている。
2.3.2 中性子発生装置
わが国に設置されている中性子ラジオグラフィ設備を
表2 に、また、
図4 、
図5 に原子炉、加速器を用いた装置の代表的な例を示す。
原子炉の場合は、いずれも研究用原子炉が利用されており、炉心部から実験孔を通して方向の揃った熱中性子ビームを引き出し使用する。解像度の良い透過像を得るには、できる限り、炉心側の孔径Dを小さくし、被写体までの距離Lを長くとる(L/Dを大きくする)ことが望ましい。また、熱中性子の全中性子に対する比率を高めるには、図4に見られるように、炉心から直接、ビーム(radial beam)を引き出さずに、その中間に重水タンクを設置しておく方法(tangential beam)が汎用される。
加速器の場合は、強い中性子出力の得やすいサイクロトロン、ライナックなどが望ましい。わが国で業務用として実用に供されているのは、小型サイクロトロンである(表2)。図5の小型サイクロトロンは宇宙開発事業団のロケット部品(火工品)の検査に1983年以来、日常的に使われている。また、2006年(平成18年)度には大強度陽子加速器のビーム試験が始まる。実用的ではないが得られる強力なパルス中性子線による新たな技術開発が期待されている。
放射性同位体では、Cf−252線源利用装置が、その移動容易性を活かして、米国等で軍用航空機の機体検査などに用いられている。
図6 は日本原子力研究所(大洗)で研究用に製作、使用されていたもので、1mg(20GBq)のCf−252線源が装備可能な、移動型熱中性子ラジオグラフィ照射装置である。アンチモン(Sb)−124/ベリリウム中性子源は、強いγ線を伴い、かつ、半減期が短いため、一般には利用し難いが、イザール1原子力発電所(独)の核燃料貯蔵ポンドにおける制御棒の検査(37TBqのSb−124使用)のように、実用に供された例もある。
3.RI線源、放射線発生装置等の取扱いについて
上記RI線源および放射線発生装置(1MeV未満のX線装置は除く)を使用するには、法令(放射線障害防止法)に基ずき、施設要件等を満たし許可を受けるとともに、安全管理の監督を行う放射線取扱主任者(RI線源の合計放射能が370GBq以下では第2種でもよいが、それを超えたときと放射線発生装置の場合は第1種免状が必要)を置かなければならない。1MeV未満のX線装置の取扱いには、別の法令(労働安全衛生法、電離放射線障害防止規則)の適用を受け、エックス線作業主任者の選任が必要とされている。
(9)放射性物質の摂取による内部被ばく線量を測定評価する方法を3つ挙げ、それぞれの特徴を述べよ。
(答案例)
(1) 生物試料からの線量測定
鼻腔スワブなどの計測結果から、国際放射線防護委員会(ICRP)などによるモデル計算式に基づき体内汚染量および被ばく線量の推定が可能である。
排泄物を経時的に測定することで、汚染量や除染効果を推定することができる場合もある。
(2) 体外計測による線量測定
ホールボディーカウンタによる全身計測、肺モニタによる計測、甲状腺モニタによる甲状腺部の測定から核種を同定し、線量評価を行う。体表面汚染が残存している場合には、偽陽性もしくは過大線量評価になるため、これらの検査の前に十分な体表面除染は不可欠である。
●ホールボディーカウンタ (WBC)の原理と限界
ホールボディーカウンタは体内被ばくによる放射線障害の評価を目的とし、体内の放射性同位元素の量(放射能: Bq値)と種類(核種)を調べるために用いられる。体内にある放射性核種から放出される放射線(α線、β線、γ線、X線)は組織に吸収され、γ線やX線のみが身体外に出てくるので、測定可能な放射性物質はγ線やX線を放出する核種に限られる。WBC用の放射線測定機器には、NaI(Tl)、プラスチックシンチレータを使用したシンチレーション検出器やGe半導体検出器が用いられており、一般にNaI(Tl)シンチレーション検出器を使用した装置が普及している。
WBCは、低レベルの体内汚染を検出するために、周囲からの放射線(バックグラウンド)を減少させる目的でNaI(Tl)検出器や被測定者の背面に鉄材(一般に厚さ約10cm)の遮蔽が施されている。NaI(Tl)シンチレータは、そのγ線エネルギースペクトルを計測・解析することにより数分間の測定で体幹部の体内放射能を同定する。
(1) α線核種による体内汚染
プルトニウムなどのα線核種の吸入の場合、肺モニタによりα線核種崩壊に伴う特性X線を測定することで、汚染の診断および線量評価を行う。また、排泄物の測定は体内の残留率の評価に役立つ。
(2) β線核種による体内汚染
β線崩壊による場合、γ線を体外計測で検出する(NaIシンチレーション検出器およびWBC)。甲状腺の内部汚染の場合は、甲状腺モニタで放射能汚染を測定し被ばく線量を計算する。生物試料は、スペクトロスコピーによって核種の同定および残留率を計算する。
(3) γ線核種による体内汚染
WBCで体外計測を行う。生物試料は、ゲルマニウム(Ge)検出器、NaI検出器で測定し、核種同定や体内残留率を計算する。
(4) 中性子線被ばくによる放射化
体内汚染がない場合でも、放射化による放射性核種が検出される場合がある。天然の放射性核種や核分裂生成核種以外が検出された場合、特に24Naの場合は中性子線被ばくを考慮する。WBCによる体外計測や単位体積当たりの血液から被ばく線量の推定が可能である。
経験論文
(20-1) 原子炉システムの設計及び建設
1-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙6枚以内にまとめよ。)
- あなたが受験申込書に記載した「専門とする事項」について、あなた、又はあなたのグループが実際に行った業務のうち、技術士として相応しいと考える事項を挙げて、その業務について、特に“工夫して成功したと考える点”、“苦心の上解決できたと考える点”や“世界的な技術レベルを達成したと考える点”など、自分自身で技術士としての適格性を主張できると考えているところを詳しく述べよ。(答案用紙4枚以内にまとめよ。)
- 上記の業務経験をもとに、以下の課題の中から2つを選び、「原子炉システムの設計及び建設」の技術士の立場から、それぞれあるべき方向について述べよ。(各課題についてそれぞれ答案用紙1枚以内にまとめよ。)
・原子力開発の長期展望 ・安全性、信頼性の確保 ・経済性の向上
・安心感の醸成 ・技術者の倫理 ・国際化
(20-2) 原子炉システムの運転及び保守
1-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙6枚以内にまとめよ。)
あなたがいままでに経験した、原子炉システムの運転または保守に関連する苦労した問題を2つ挙げ、それぞれについて3枚以内で、
(1)概要
(2)その問題を解決するためにとられた措置
(3)あなたが技術者として、その解決策にどのような工夫を行ったか
(4)現在の技術水準ではどのような対応が可能か
について分かりやすく述べよ。
(20-3) 核燃料サイクルの技術
1-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙6枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について、実際に行った業績のうち、技術士としてふさわしいと思う2例を答案用紙2枚以内に記し、さらにその中の1つについて、その業績が、如何に社会に影響を与えたと考えるか、また原子力施設を運転管理する観点から、今後改善していかなければならないと考える課題と改善策について答案用紙4枚以内に述べよ。
(20-4) 放射線利用
1-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙6枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込書に記載した「専門とする事項」について、あなたが実際に行った仕事に関し、
(1)技術士としてふさわしいと思う業務体験を2例(失敗例でもよい)挙げて、それぞれ について、答案用紙2枚以内で、業務遂行中に直面した課題、その解決方法、得られた技術的成果と波及効果(失敗例の場合は、その原因と現在考えられる解決策)を述べよ。
(2)あなたのこれまでの業務経験からみて、その分野における放射線利用の現状での問題 点と今後の発展の方向について、答案用紙2枚以内で述べよ。
(20-5) 放射線防護
1-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙6枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について、過去に実施した業務、又は現在実施している業務の中から1件を選び、以下の項目について述べよ。
(1)業務の概要とその実施時期
(2)直面した問題点又は課題
(3)問題解決の方法と創意工夫
(4)現時点での評価と今後の技術的展望
次の2問題について解答せよ。(緑色の答案用紙を使用し、問題ごとに用紙を替えて解答問題番号を明記し、それぞれ指定の枚数以内にまとめよ。)
半導体検出器を使用した線量計であり、デジタル表示で被ばく線量が直読可能であること、警報機能を付帯できること、測定記録が通信システムにのりやすく入退域管理、トレンド管理等にも利用できることから最近急速に利用が広がりつつある。
従来、このタイプの線量計は、日管理や作業管理のための使用が主であったが、堅牢性や電子技術の進歩によって信頼性が向上した結果、被ばく記録用の個人線量計としても利用が可能になった。
●個人線量計の選択基準
個人線量計は、その特徴を十分に検討し、個々の放射線作業に対して最適なものを選択しなければならない。このため以下のような項目について検討する必要がある。
a)測定の目的
b)使用する場所の放射線の種類とエネルギー
c)作業の状況と線量率の時間的変動
d)作業場の環境条件(温湿度、雰囲気中の化学物質など)
しかしながら、種々の放射線、様々の状況下における個人の被ばく線量を測定するためには、必要に応じて異なった種類の個人線量計の組み合わせ使用、また、身体に対して均等でない放射線場の場合には、複数の線量計の着用もなされる。さらにまた、作業の状況によっては、指、手先等の被ばくを測定するため、局部被ばく線量計も使用される。
●個人線量データの管理
放射性物質を取扱う施設や原子力発電所などで働く放射線作業者の被ばく線量記録は、個人モニタリング記録といわれ、作業者個人や作業者集団の放射線防護を目的に、一人ひとりの記録として作成し管理する。
その記録は放射線防護関係法令の規定に従って、外部被ばく、内部被ばくの測定記録と実効線量などの算定記録に分けて記録され、その写しは作業者本人に通知される。
(解答のヒント)
・50% Lethal Dose。その毒物を摂取後、摂取患者の50%が「死亡」する量で、要はその毒物を飲んだ場合に50%の確率で死ぬだけの分量。
・投与された動物の半数が、48時間以内に死亡する投与量を、試験物質の半致死量と推定する。半致死量が小さいほど、強い毒性、強い急性毒性がある、といえる。
・ヒトの場合全身被曝での推定LD100(致死量):7〜8Sv、推定LD50(半数致死量):5.5〜3Sv
(解答のヒント)
●放射線による身体への影響、すなわちがんや遺伝的影響の起こりやすさは組織・臓器ごとに異なる。組織ごとの影響の起こりやすさを考慮して、全身が均等に被ばくした場合と同一尺度で被ばくの影響を表す量を実効線量という。
実効線量を表す方法として、ある組織・臓器の等価線量に、臓器ごとの影響に対する放射線感受性の程度を考慮した組織荷重係数をかけて、各組織・臓器について足し合わせた量が用いられる。
実効線量(Sv)=Σ等価線量(Sv)×組織荷重係数
(解答のヒント)
●ある種のガラスに放射線を照射したのち、紫外線を当てると発光する現象をラジオフォトルミネッセンスといい、この性質を利用した線量計を蛍光ガラス線量計(通称ガラス線量計)という。ガラス線量計は、銀活性化リン酸塩ガラス中での銀イオンの化学的変化を利用しているもので、フェーディングと呼ばれる線量情報の消失が年1%未満ときわめて少ない。また、測定しても線量情報は消滅せず、何度も繰り返し読み取ることができるため、測定の統計精度を上げ、安定した測定値を得ることができる。
ガラス線量計は、個人線量計としてだけでなく、測定値の安定性を利用して、環境放射線測定やあるいは基準照射線量値の相互比較確認試験などにも利用されている。
(解答のヒント)
●予め低線量(0.02から 0.1Gy程度)の放射線を被ばくした細胞がその後の照射に対して抵抗性を示す現象。姉妹染色分体交換、染色体異常、生存率などを指標として報告されている。
適応応答が発現されるまでに数時間を要し、その間に遺伝子(未同定)の発現と、タンパク合成が必要とされる。適応応答を誘導する線量には適値があり 0.1Gyを超えると効果が減じる。照射後24時間程度で誘導された抵抗性は失われる。PKC(プロテインキナーゼC)の活性化剤で同様の効果が見られることから、細胞内情報伝達系の関与が示唆される。
●刺激あるいはストレス反応性は、生物、細胞の持つ基本的な特性の一つである。刺激が繰り返されると、刺激に抵抗性となる。これを適応応答(adaptive response)と呼ぶ。“放射線適応応答”とは、一般的には低線量の放射線により、後続の高線量照射に対する抵抗性が誘導される現象を指すが、広義には放射線ホルミシスと同義語のように使われる場合もある。
生物は現在より高い自然放射線の環境下で生じ、放射線に限らず多様な物理的、化学的ストレスのある状態の中で進化してきた。ホルミシスは、こうした多様なストレスに対し、生体が進化の過程で獲得してきた重要な生体防御機構と考えられる。
放射線ホルミシス現象は、分子、細胞から個体レベル、さらには疫学データにおよぶ多岐にわたる系で検出されている。細胞増殖の促進、免疫能の亢進、成長促進、寿命延長、疾病抑制、がん発生率や死亡率の低下その他、多様なホルミシス効果が認められている。
低線量放射線のホルミシス効果を示す例として、ゾウリムシを鉛の箱で自然放射線を遮断して飼育すると、正常の増殖能が抑制され、放射線源を入れると回復したという知見もある。
ホルミシスを誘発する低線量として、多くの系で一回の照射の場合は1−20cGyで特異的に認められ、50cGy(センチグレイ)以上ではこうした効果が消失することが多い。また、放射線に限らず、熱、紫外線などの物理的ストレス要因やDNA損傷性物質などでも、同じような生体反応を引き起こすことが観察されている。
低線量前照射により放射線抵抗性を誘導する“適応応答”も、放射線に限らず微量の各種のDNA損傷物質やストレス要因によっても誘導され、また、逆に低線量放射線がそれらの要因に対する交叉適応を誘導する。