技術士第一次試験 平成18年度 適性科目 問題と正解・解説

第一次試験過去問題Topへ


適性科目解答案一覧
2-1 2-6 2-11
2-2 2-7 2-12
2-3 2-8 2-13
2-4 2-9 2-14
2-5 2-10 2-15

■注記■ここでは、技術士法技術士倫理要綱、および下記文献を参考にしました。文中では「テキスト1」のように略称を使っています。これらは試験勉強のテキストともなりますので、可能なら入手してください。特にテキスト1と4、次いで5がお勧めです。

略称 書籍名 著者 訳編 発行所 参照
テキスト1 科学技術者の倫理〜その考え方と事例 Harris,Pritchard&Rabins 日本技術士会 丸善株式会社 こちら
テキスト2 環境と科学技術者の倫理 Vesilind&Gunn こちら
テキスト3 科学技術者倫理の事例と考察 米国NSPE倫理審査委員会 こちら
テキスト4 大学講義 技術者の倫理入門 第2版 杉本泰治・高城重厚 こちら
テキスト5 技術者倫理の世界 藤本温(編著) 森北出版 こちら
テキスト6 技術士の倫理 日本技術士会倫理委員会 日本技術士会 こちら

2−1 次のア)〜エ)について,正しいものは○,誤りは×として,最も適切な組合せを(1)〜(5)の中から選べ。

ア)APECエンジニア制度への加盟問題を契機に,技術者資格の国際的な整合性を確立するうえに不可欠な要素として,技術者倫理の必要性が認識された。そして,平成12年に技術士法が改正され,「資質向上」と共に,「公益確保」が技術士の責務となった。

イ)科学技術は諸刃の剣にたとえられる。人類に福利をもたらす一方,環境を大きく傷つけることもある。したがって,技術者は技術者倫理に基づき,所属する組織にとらわれることなく自律性を発揮しなければならない。

ウ)マンションやホテルなどの耐震設計偽装事件,JCOの臨界事故,有機水銀による水俣病など,技術に携わるものは,人々の安全に直接関係している。このことが技術者倫理が求められる大きな理由である。

エ)技術者倫理を実践するには,法律はじめ,所属する組織の倫理綱領や規範などを知るほかに,事例による倫理的考え方の習得が効果的である。

(ア) (イ) (ウ) (エ)
(1) × ×
(2) × ×
(3) × × ×
(4)
(5) ×

---------
正解は4
---------

(ア) ・・・・○ そのとおり。12年改正の一番のポイントの1つ。
(イ) ・・・・○ そのとおり。自律は科学者に強く求められています。
(ウ) ・・・・○ そのとおり。感覚的にもわかる。
(エ) ・・・・○ そのとおり。冒頭のテキストはすべて事例を含んでいます。また、決疑論では個々の事例を用いて結論の一致を求めます。この試験にも出たチャレンジャー号事故やフォード・ピント事件は、多くの教訓を含んだ事例として非常に有名です。
※常識感覚でわかる問題です。

戻る


2−2 2−2 次のア)〜エ)について,正しいものは○,誤りは×として,最も適切な組合せを(1)〜(5)の中から選べ。

ア)2つ,または,それ以上の相反するモラルや責務の間で,または,相反する行動の間で,何を行うべきかが相反問題である。相反問題に倫理的判断を下す場合,線引き問題における決疑論は使えないので,他の考え方が必要となる。

イ)ある汚染物質の排出基準を満たすうえで利用可能な技術には限界がある。そこで,新技術を開発して,排出基準を満たす。このような方法は創造的中道法,または,創造的第3の解決法と呼ばれている。

ウ)複数の責務を総合的に判断し,とるべき行為を選ぶうえで,功利主義の立場による次の3つの方法がある。(1)この行為方針は,どの方法よりも,多くの幸福を生むことができるかを問う, (2)費用に対して受益の大きいものを選ぶ, (3)誰もが同じ状況で同じことをすれば,功利は最大になるかを問う。

エ)「行為者として,受領者の立場・価値観・個人的感情に入れ替わっても自分の行為に同意できるか」は,個人に対する尊重を確認する考え方の1つである。

(ア) (イ) (ウ) (エ)
(1) ×
(2) × × ×
(3) × ×
(4) × ×
(5) ×

---------
正解は1
---------

(ア) ・・・・× 線引き法とは、一本の水平線の一方の端に倫理的に完全に正しい事例を、もう一方の端に完全に間違っている事例を置き、様々な個々の事例をその正しい・間違いの程度に基づいて線上に配置したものを用意し、検討対象とする行為等について、線上の様々な事例と比較することによって位置決めし、その倫理的正しさの度合いを判断する方法です。相反問題などで複数の価値観・評価尺度がある場合は、複数の線引きを行うことで利用が可能です。よって、相反問題の理論的判断には使えなくはありません。
※『相反問題についても、解決するに付いていくつかの選択肢がある場合、線引き問題として解決されることになる。』テキスト4、p.104
(イ) ・・・・○ そのとおり。創造的第3の解決法は、相反問題(トレードオフ)を解決する、最も理想に近い方法です。(参考:こちら
 なお、臨時掲示板において新技術開発は容易じゃないだろうとか、双方納得の道を示すというのと違うのじゃないかといった意見が見られました。
「生産を行う」と「汚染を避ける」という2つの利益の対立のみというシンプルな状態では、どちらがどれだけ譲るかという選択しか存在しないわけです。ここに、排水基準を満たしつつ生産を続ける技術があれば、双方のニーズを完全ではないにしろ、両立させることができるわけです。そういう方法を何というかという選択肢なので、新技術開発が容易かどうかという議論や生産続行と汚染回避の重要性比較を論じることは、この選択肢の適否を判断する上では的外れです。また、妥協案を見出すのが創造的第3の解決法ではありません。
(ウ) ・・・・○ そのとおり。(1)は行為功利主義、(2)は費用便益分析、(3)は規則功利主義の取り組みです。(参考:
こちら テキスト1、p.89〜96
(エ) ・・・・○ そのとおり。黄金律と呼ばれるもので、古代からの代表的な倫理の規範です。 テキスト1、p.97〜98/テキスト4、p.4

戻る


2−3 次のア)〜エ)について,正しいものは○,誤りは×として,最も適切な組合せを(1)〜(5)の中から選べ。

ア)技術士法第45条の2では,「技術士又は技術士補は,その業務を行うに当たっては,公共の安全,環境の保全その他の公益を害することのないよう努めなければならない。」と定めている。これは平成12年の技術士法改正で追加された条項であり,秘密保持義務など従来から規定されている条項と比べて,判断の基準としての重要度は低い。

イ)(社)日本技術士会は,10項目からなる技術士倫理要綱を定めている。この要綱は(社)日本技術士会の会員であるか否かにかかわらず,技術士がこの要綱の実践に努め行動することをうたっている。

ウ)多くの技術系学協会は,それぞれの倫理綱領や規範を定めていて,会員にその実践を求めている。

エ)技術士法第45条では,技術士等の秘密保持義務を次のように定めている。「技術士又は技術士補は,正当の理由がなく,その業務に関して知り得た秘密を漏らし,又は盗用してはならない。技術士又は技術士補でなくなった後においても,同様とする。」したがって,たとえ,公衆の安全が損なわれる可能性が大きい場合であっても,技術士は,秘密保持義務を優先しなければならない。

注:技術士等とは,技術士および技術士補のこと。

(ア) (イ) (ウ) (エ)
(1)
(2) × ×
(3) ×
(4) × × ×
(5) × ×

---------
正解は5
---------

(ア) ・・・・× 重要度が低いとはいえません。
(イ) ・・・・○ そのとおり。技術士倫理要綱(こちら)については、技術士会の定款第11条に、『制裁のための規範(=評価規範)として会員外の技術士に適用されることはないが、一般の技術士が行為規範として積極的に利用することには意義があり、その主旨の規範として役立つのが望ましい』とあります。 テキスト6、p.26
(ウ) ・・・・○ そのとおり。説明するまでもありません。

(エ) ・・・・× 公益優先原則です。NSPE基本綱領等にも明記され、テキスト4、p31テキスト6、p.6などに引用されています。

戻る


2−4 最近の不祥事が発覚される発端は,内部告発であることが多い。内部告発は社会の浄化に大きな貢献をしているが,冷遇されているのが現実である。内部告発者を保護し,解雇などの不当な扱いを禁止する公益通報者保護法が平成18年4月1日より施行された。これに関連して,次の記述のうち最も不適切なものを選べ。

(1) この法律は労働者がその組織の違法行為を通報することを公益通報として,公益通報者を降格,減給,解雇などの不利益な取り扱いから保護するものである。保護される対象には事業者も含まれている。

(2) 内部通報制度は,企某々官庁が内部に違法,不正なコンプライアンス違反の行為が存在することを認め,自浄作用によってこれを是正する契機となることを期待した制度である。内部告発を積極的に奨励するものではなく,「通報対象事実がまさに生じようとすることを信じるに足りる相当の理由」など一定の要件を満たす公益通報を保護している。

(3) 内部告発音はほとんどが組織内で浄化されることを願っており,企某々官庁がきちんとした内部通報を受け入れる仕組みやコンプライアンス体制を作れば,外部通報は直ちには行われないものと考えられる。

(4) De Georgeはwhistle blowingがモラル的に許される基準として,1)社会一般に深刻且つ重大な危害を与えると考えられること,2)直属の上司に報告していること,3)組織内のあらゆる可能性に取り組むこと,をあげている。

(5) 公益通報をする労働者は,他人の正当な利益または公共の利益を害することのないように努めねばならない。


---------
正解は1
---------

(1)・・・・× 下記の法第一条及び第五条より一つ目の文章は正しいのですが、第二条の2より保護される対象に事業者も含まれるという部分が誤りです。
第一条  この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。
第二条の2  この法律において「公益通報者」とは、公益通報をした労働者をいう。
第五条  第三条に規定するもののほか、第二条第一項第一号に掲げる事業者は、その使用し、又は使用していた公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、降格、減給その他不利益な取扱いをしてはならない。

(2)・・・・○ 法第二条および第三条よりその通り。
(3)・・・・○ 「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」において、その目的として
         ? 事業者のコンプライアンス経営を強化するために、事業者内部で通報を適切に処理する指針
         ? 仕組みを整備することは事業者内部の自浄作用を高める
       といったことがあげられています。
(4)・・・・○ ディジョージは、内部告発の道徳的正当化の5つの条件をあげています。これは、いわば内部告発チェックリストといえるでしょう。詳細は
こちら
       ディジョージによれば、(1)〜(3)が満たされれば内部告発は道徳的に許されます(内部告発してもよい)。設問はまさにこれです。
       なお、(4)と(5)も満たされれば内部告発は道徳的に義務となります(内部告発すべきである)。
           (1) 一般大衆に深刻かつ相当被害害が及ぶか?
           (2) 上司へは報告したか?
           (3) 内部的に可能な手段を試みつくしたか?
           (4) 自分が正しいことの、合理的で公平な第三者に確信させるだけの証拠はあるか?
           (5) 成功する可能性は個人が負うリスクと危険に見合うものか?

(5)・・・・○ 法第八条よりその通り。
第八条  第三条各号に定める公益通報をする労働者は、他人の正当な利益又は公共の利益を害することのないよう努めなければならない。

戻る


2−5  科学技術のもたらす危害を防止する事は技術者の社会的責任である。事故は依然としてなくならないが,安全に関する次の記述のうち,最も不適切なものを選べ。

(1) 原子力発電関係の事故やトラブルが生じた際に,隠蔽や虚偽報告が起きて大きな問題になった。これは原子力関係者が原子力設備は絶対に安全とは思っていないにもかかわらず,原子力設備の受け入れ促進のために,「絶対安全」と標榜してきたことも一因となっている。

(2) 安全の定義は,ISO/IECガイド51では「受け入れ不可能なリスクのないことfreedom from unacceptable risk」と記載されている。これは「安全」といっても,いくばくかの残留リスクが残っており,常に事故は起こりえることを表している。

(3) 自動回転ドア事故,自動車リコール事件など,事故が何の予兆もなく発生することはほとんどない。「ヒヤリハット活動」などの制度を活用していくことによって,危険の芽を事前に摘み取っていくことが重要である。

(4) 安全対策は「人間は過ちを犯す,機械はいつかは壊れる」ということを前提に立てられる。人間のミス,設備トラブル,製造条件のずれが生じた場合のリスクアセスメントを的確に実施することが重要で,対策は,まず,防護装置や使用上の注意や警告などをきちんと整備することから始められる。

(5) 「もう事故を起こしません」と謝罪がなされる光景がテレビで見られるが,会社側に求められていることは,いかにしてリスクを減らそうとしているかを一般の人に分かる形で説明することで,それが「説明責任」を果たすことになる。


---------
正解は4
---------

(1)・・・・△ 前半は事実です。後半は、
 「原子力設備は絶対に安全とは思っていない」:まともな技術者なら絶対安全など思うわけがありませんので、まあそうだろうと判断できます。
 「原子力設備の受け入れ促進のために,「絶対安全」と標榜してきたことも一因」:事実という根拠もありませんが、不適当という根拠もありません。
ということから、全体としては、「ありそうな話だね。それが違うという根拠もないし」というあいまいな感じになります。このあたりの考え方は、たとえばテキスト5、p.73あたりを読めばよく理解できるのではないでしょうか。

(2)・・・・○ そのとおり。残留リスクとは、「防護対策が講じられた後に残留するリスク」です。
(清水久二・福田隆文「機械安全工学」,2000,p.114-115)

(3)・・・・○ そのとおり。ヒヤリハット活動などは未然防止活動と呼ばれます。

(4)・・・・× 前半およびリスクアセスが重要というところまでは正しいのですが、リスクアセスを確実なものにするには、方針決めから入って、どんなリスクがあり得るか洗い出して、そのメカニズムを検討することで、故障などが発生するリスクを低減することが必要です。防護装置うんぬんは、リスクが顕在化してしまってからの話ですから、次元が違います。

(5)・・・・△ 
テキスト5、p.73に同じような下記文章があります。
          いかにしてリスクを減らそうと努力しているのかというプロセスを資料と荷もわかる仕方で説明することであり、そういう説明責任を果たすことの方がいっそう重要です。
 ただし、「それが説明責任を果たすことになる」という表現は、安全への取り組みを説明することが説明責任の十分条件であるような誤解を与える文章になっており、あまり適当ではないと思います。説明責任はあらゆる過程にあります。たとえば事故の発生要因や機構に関する説明責任もあります。もちろん安全対策の内容の説明責任もあります。これはリスクコミュニケーションとして、社会的受容を得るための条件でもあります。またインフォームドコンセントを成立させるための大前提でもあります。
 すなわち、選択肢の文章はリスクコミュニケーションを果たすことは、説明責任を果たすことの十分条件(本当は必要条件)という捉え方ができるので、あまり適当ではないと考えられます。

 以上のように、適当とは言いがたい選択肢もあるのですが、それらを踏まえても(4)が圧倒的に不適当の度合いが強いと判断でき、また設問が「最も不適当なものを選べ」なので、正解は(4)となります。

戻る


2−6 談合とは,入札に際して,入札参加者があらかじめ話し合い,受注予定者と受注価格を事前に決めてしまう行為のことをいい,典型的なカルテルであり,最も悪質な独占禁止法違反行為の一つである。本年1月,独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)が改正され,入札談合に対して一段と規制が強化された。独占禁止法についての次の記述のうち,最も不適切なものを選べ。

(1) 独占禁止法は,公正で自由な競争を促進して,一般消費者の利益の確保および国民経済の民主的で健全な発達を目的としている。

(2) 改正独占禁止法は,違反行為を行った大企業への課徴金を大幅に引き上げることで制裁力を強化する一方,談合など違反行為を自ら申告した企業は先着3社まで課徴金を減免する制度を導入した。

(3) 従来,公正取引委員会の調査は行政上の権限しかなく,立ち入りも任意だったため,証拠隠滅のケースもあった。今回の改正で違反企業に対する強制的な捜索や差し押さえができる調査権が与えられ,公正取引委員会は強力な権限を手にした。

(4) 今回の独占禁止法改正で,迅速な競争秩序の回復を図るため,従来の勧告制度を廃止し,事業者に意見申述・証拠提出の機会を与えるなどの事前手続を踏んだ上で排除措置命令や課徴金納付命令などを行うこととなる。

(5) 独占禁止法の適用除外規定には,著作権法,意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為は含まれる。しかし,特許法,実用新案法による権利の行使と詰められる行為は,独占禁止法の対象になる。


---------
正解は5
---------

(1)・・・・○ その通り。独禁法第一条。
第一条 この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。
(2)・・・・○ その通り。改正の4つのポイントは、課徴金制度の見直し、課徴金減免制度の導入、犯罪調査権限導入、審判手続き等の見直しです。こちら
(3)・・・・○ その通り。
こちら
(4)・・・・○ その通り。
こちら
(5)・・・・× 独禁法第21条。特許や実用新案に対して権利行使を制限されては話になりません。感覚的にわかると思います。
第六章 適用除外
第二十一条 この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。

戻る


2−7 次の記述における「公衆」の定義について,最も適切なものを(1)〜(5)の中から選べ。

 現在制定されている技術系学協会のほとんどの倫理綱領には「技術者は,その専門職上の責務を果たすうえで,公衆の安全,健康および福利を最優先する」という条文が,第一の憲章として含まれている。技術系学協会倫理綱領での「公衆」の定義は,チャレンジャー号事件を使って次のように説明されている。
 チャレンジャー号事件で,公衆は,だれなのか,スペース・シャトル打上げ費用を最終的に税金として負担するアメリカ国民がいる。一般市民で初めて搭乗者に選ばれた高校教師,クリスタ・マコーリフさんを失ったアメリカの子供たちがいる。これらの人たちは,明らかに公衆である。しかし,「公衆」には,さらに深い意味が与えられている。
 チャレンジャー号の宇宙飛行士は,飛行当日の朝,打上げ台に氷ができていることを知らされ,打上げを延期するかどうかの選択権を与えられた。彼らはその選択権を行使しないほうを選んだ。 しかし,だれも彼らに低温でのOリングの挙動についての情報を与えなかった。 したがって彼らはそのリスクを知らなかったから,Oリングのリスクを知って打上げに同意をしたのではなかった。この場合,宇宙飛行士は,Oリングによる爆発の危険に関しては,公衆の一部である。なぜなら,その危険の知識をまったく持たなかったからである。他方,ブースター・ロケットにおける氷の形成に関しては,公衆ではない。なぜなら,そのことを知らされていて,危険と判断すれば打上げを中止する選択をすることができ,その権限があったからである。


(1) 技術を開発提供する技術者およびその事業経営者とその技術サービスの恩恵を受ける人々

(2) 専門職としての技術業についていない人々

(3) よく知らされた上での同意を与えることができる立場にはなくて,その結果に影響される人々

(4) 国などの社会を形成している全ての人々

(5) メディアを通じて世論を形成する人々


---------
正解は3
---------

平成15年度試験にも出ています。これはもう技術者倫理の基礎知識といえます。こちら
「よく知らされた上での同意」=「インフォームドコンセント」と言い換えれば理解は早くなります。
テキスト4、p.161
十分な情報のもとに、自分自身の判断を下すことがインフォームドコンセントであり、この事例では、チャレンジャー号乗員はOリングのリスクを知っていなかったわけですから、インフォームドコンセントは成立しておらず、ゆえに彼らは公衆の立場にあるということです。
今年度試験では、事例のもとに「公衆」の意味を考えさせていますから、知識として「公衆」を知らなくても文脈からわかると思いますが、H15試験ではいきなり「公衆とは何か」みたいな問いでした。
技術者倫理という「学問」では、こういった「公衆」のような用語もちゃんと定義づけられていますし、JABEE認定大学ではそのように教えているはずです。受験者の「人間性」を問うのではなく、技術者倫理という学問に関する知識・見識を問う試験だという認識、さらには技術者倫理は「道徳」などではなく、体系化された学問であるという認識が必要です。

戻る


2−8 製品の設計・開発にたずさわる技術者の責任の範囲を説明した次の文章のうち,最も適切なものを選べ。

(1) 製品のアイデアを生み,そのアイデアを専門職務上の雇用者あるいは依頼者に報告書として引き渡した時点以降,アイデアを生み出した技術者は,技術的な開発プロセスを監視する責任をもっていない。

(2) 製品のアイデアを生み,そのアイデアを製品試作して,専門職務上の雇用者あるいは依頼者に試作品を引き渡した時点以降,その技術者は,技術的な開発プロセスを監視する責任をもっていない。

(3) 製品のアイデアを生み,そのアイデアを製品化した時点以降は,製造・販売する事業者の責任なので,その技術者は,技術的な開発プロセスを監視する責任をもっていない。

(4) 製品のアイデアを生み,そのアイデアを製品化して製造・販売して,消費者に渡り,製品の保証期間が過ぎれば,その技術者は,技術的な開発プロセスを監視する責任をもっていない。

(5) 製品のアイデアが生まれたときから最終的な廃棄まで,その技術者は,技術的な開発の全てのプロセスを監視する責任をもっている。


---------
正解は5
---------

 設計・開発担当技術者が、その製品の製造・販売・使用・廃棄というライフサイクルの、どこまでの責任をもっているかという問題です。なお、PL法では、製造業者に対する責任は問いますが、その川上にいる設計・開発者の責任は問いません。
 私は、この問題には「出題ミス」と言ってもいい大きな問題点があると考えます。それは、「責任」の定義が明確でないという点です。責任には法的責任道義的責任があります。言い換えれば、法と倫理のどちらの視点から設計・開発に携わる技術者の責任を論じているかです。ほとんどの場合、道義的責任は法的責任より広くなります。それは、
   法的責任・・・・しなければならない
   道義的責任・・・・何かできること(あるいはなすべきこと)があるかもしれない

というものだからです。法と倫理はいずれも規範ですが、他律的か自律的かという本質的な違いがあり、その結果としてそれに反した場合の代償も異なってきます。(
こちら
 もしこれが法的責任であれば、非常に難しい問題になります。たとえば、カネミ油症事件では、カネミ工場長は法的責任を問われ処罰されましたが、カネミ試験室の室員は処罰されませんでした。つまり彼らに法的責任はありません。しかしカネミ倉庫では、品質に関する社内規格を設けて、試験室で各工程ごとに品質検査をしていました。試験室に勤務する彼らには何かできることがあったかもしれません。そういう意味で、道義的責任はないとはいえません。
 この問題が法的責任を取り上げているのなら、正解選択肢(5)は原則として例外なく適用されなければなりません。つまり、設計・開発に携わる技術者は、廃棄までのライフサイクル全体を監視する法的責任があることとなります。当然ながら彼はその責任を果たすために、モニタリングを行わねばならなくなり、そのための経費や時間を割く必要が出てきます。そのようなことは非現実的ですし、もしできたとしても、法的プレッシャーの強さに、製品に潜在するリスクから回避しようとする(つまり、製品のアイデアを出すこと自体をやめる)でしょう。
 すなわち、「責任」を法的責任とすれば、正解は(5)ではなくなります。ところが、問題文には「責任」が法的責任なのか道義的責任なのかの明記がなく、これが適性科目試験であるという背景から倫理すなわち道義的責任のことを言っているという漠然とした大前提の上にたっています。「そのような堅苦しいことを言わなくても、そんな大前提は大部分の人があらかじめわかっているから、いちいち断らなくてもいい」という意見もあるかもしれませんが、これは国家試験ですから、厳密さが求められます。そのような意見は、正当性の根拠にはなりません。
 以上により、この問題は不適切であると私は判断します。出題ミスと言ってしまってかまわないと思います。

 ところで、道義的責任のこと扱った問題であることを前提にすれば、正解はどれでしょうか。たとえば掃除機を設計・開発したとして、考えてみます。
 スイッチが劣化により比較的短期間で入りにくくなってしまうという問題が発生し、そのスイッチは特に目新しい構造のものでもなかったという場合、材質あるいは製造工程上の問題等を考えるべきであって、設計・開発担当技術者の責任などないと言っていいでしょう。
 一方、新しい設計思想による集塵機構に問題があって、すぐに使えなくなるような製品であった場合、「そもそも設計が悪いんじゃないの」となります。さらに、それが原因で掃除機が発火し多大な損害を被る人が出たら、いわゆる「社会的責任を問われる」状態になるでしょう。その被害が多発して社会問題にでもなったら、法律そのものに手が加えられる可能性もあります。たとえばPL法が「設計上の著しい不適切により発生した場合には」なんて条件付で設計・開発者の責任も問うものに改正されるかもしれません。技術者は法に問われない可能性が大ですが、道義的責任の大きさから大いに苦しむでしょうし、社内外での社会的評価は大いに低下し、場合によっては「社会的制裁」と言えるものに至るかもしれません。
 このように、道義的責任をどこまで負うのかという問題については、極端な場合を考えればよいと思われます。製造・販売・使用・廃棄の各段階で、設計上の著しい不適切性に起因する重大な被害が発生した場合でも、設計・開発担当技術者には同義的責任はない(つまり、何もできることはなかった)といえるかというと、それはいえないでしょうから、選択肢(5)が正しいと判断されます。

戻る


2−9 技術士の義務に関する規範として,技術士法第4章の規定がある。次に掲げる技術土法第4章を読み,ア)〜エ)の説明について,正しいものは○,誤りは×として,最も適切な組合せを(1)〜(5)の中から選べ。なお,技術士等とは,技術士及び技術士補を指す。

技術士法第4章 技術士等の義務
 (信用失墜行為の禁止)
第44条 技術士又は技術士補は,技術士若しくは技術士補の信用を傷つけ,又は技術士及び技術士補全体の不名誉となるような行為をしてはならない。
 (技術士等の秘密保持義務)
第45条 技術士又は技術士補は,正当の理由がなく,その業務に関して知り得た秘密を漏らし,又は盗用してはならない。技術士又は技術士補でなくなった後においても同様とする。
 (技術士等の公益確保の責務)
第45条の2 技術士又は技術士補は,その業務を行うに当たっては,公共の安全,環境の保全その他の公益を害することのないよう努めなければならない。
 (技術士の名称表示の場合の義務)
第46条 技術士は,その業務に関して技術士の名称を表示するときは,その登録を受けた技術部門を明示してするものとし,登録を受けていない技術部門を表示してはならない。
 (技術士補の業務の制限等)
第47条 技術士補は,第2条第1項に規定する業務について技術士を補助する場合を除くほか,技術士補の名称を表示して当該業務を行ってはならない。
2 前条の規定は,技術士補がその補助する技術士の業務に関してする技術士補の名称の表示について準用する。
 (技術士の資質向上の責務)
第47条の2 技術士は,常に,その業務に関して有する知識及び技能の水準を向上させ,その他その資質の向上を図るよう努めなければならない。

ア)技術は日々変化,進歩している。技術士は,名称表示している専門技術業務領域を能力開発することによって,業務領域を拡大することができる。

イ)技術士は,自分の有能な領域の能力を維持するためにも,継続的な能力開発が必要である。

ウ)技術士は,公衆の安全,健康及び福利を最優先とする技術系学協会の倫理綱領を遵守する限りにおいては,技術士法で定める義務から免れる。

エ)技術士は,所属する組織の業務について秘密保持義務があるが,リストラにより退職してその組織を離れた後は,その秘密保持義務に制約されることはない。

(ア) (イ) (ウ) (エ)
(1) ×
(2) × ×
(3) × × ×
(4) × ×
(5) × ×

---------
正解は4
---------

(ア) ・・・・○ その通り。ちょっとややこしいのが最後の「業務領域を拡大できる」ですが、これはNSPE基本綱領の「有能性原則」(たとえばテキスト6、p.6)あるいは技術士倫理要綱の2「専門技術の権威」中の「事故の専門外の業務あるいは確信のない業務にはたずさわらない」に関する記述であり、能力開発によって有能性を確保する・確信を持つことができた業務領域において(もちろん名称表示義務に抵触しない範囲で)、専門技術者として活躍することができるということです。

(イ) ・・・・○ その通り。(ア)の領域拡大も大切ですが、そもそも自分の有能な領域においても、知識の陳腐化などにより有能性を低下させることがあってはなりません。ここで「維持」という言葉が引っかかりやすく、技術士法第47条の2(資質向上の責務)から「維持するだけじゃなく向上しないとダメでは?」とも取れますが、有能領域の能力維持=知識・技能の向上です。つまり、知識及び技能の水準を向上させなければ(現状維持を続ければ)、技術の進歩についていけず、専門分野における能力は低下します(有能領域とはいえなくなります)ので、能力維持のためには知識・技能の向上が必要なのです。

(ウ) ・・・・× これは法律ですので、除外規定等で定められていなければ、義務から免除されることはありません。

(エ) ・・・・× 組織を離れても、さらに技術士でなくなっても、技術士法第45条に明記の通り保守義務を負います。

戻る


2−10 2−9に掲げた技術士法第4章の規定に鑑み,次に述べる技術者の行動ア)〜エ)について,技術士としてふさわしい行動を○,ふさわしくない行動は×として,最も適切な組合せを(1)〜(5)の中から選べ。

ア) 技術士Aは,名称表示している領域で,過去に技術士Bとの共同で技術開発した領域業務にあたり技術判断をするため,業務依頼者に断り,技術士Bに相談して報告書を作成した。

イ)技術者Cは,技術士試験に合格はしているが登録はしていない技術部門についても,その名称を名刺に表示し,技術士として顧客に配った。

ウ)技術士Dは,業務を提供している相手の組織において,公衆の安全に反する行為が行われていることを発見したので,その事実を確認し,相手の組織にその事実を伝えた。

エ)技術士Eは,日常指導して技術力を認めている部下である技術者Fに,顧客から技術士Eの資格要件で依頼を受けた業務を全て任せ,報告書を見ずに報告書にサインし,提出した。

(ア) (イ) (ウ) (エ)
(1) ×
(2) × ×
(3) × × ×
(4) × ×
(5) × ×

---------
正解は5
---------

(ア) ・・・・○ 有能性原則を忠実に守っています。
(イ) ・・・・× 登録してない技術部門を表示してはいけません。前問の第46条に明記してあります。
(ウ) ・・・・○ 正しい行動です。事実を確認してからの行動であること、伝える相手がまずは当該者であることが必要です。
(エ) ・・・・× たとえ実務をやらせてもきちんと指導・検査しなくてはなりません。

戻る


2−11 次の会話は,映画『訴訟』(Class Action)を見た二人の技術者によるものである。会話の[  ]内に入る言葉として,最も適切なものを(1)〜(5)の中から選べ。

A「昨日の夜,テレビで映画『訴訟』をやっていたけれど見た?」
B「見たよ。ジーン・ハックマンが出ていたね。ひどい話だ。あれはモデルになった事件があるんだろ。たしか,フォード・ピント事件と言ったかな。」
A「そうなんだ。映画のあとで,いろいろと調べたよ。」
B「あの映画でどこが腹が立つかと言うと,アルゴ・モータース(自動車メーカー)の行った計算だよね。欠陥車をすべて修理したときの費用と,修理しないで炎上事故を起こしたときの裁判費用を比べて,修理しないで売り出した方が車を回収するよりも安くてすむというわけだ。一人の人間の命の重さを考えてないよ。アルゴの人間たちは。」
A「たしか『簡単な保険数理さ』なんて言ってたね。でもそもそもこの話のどこに問題あるんだろう。」
B「そりゃあ,人の命をお金で計算したことさ。人の命はそんなものじゃないよ。」
A「言いたいことはよくわかるよ。でも『保険』とはどう違うんだろう。たとえば生命保険の場合,残りの人生をお金で計算していると言えるだろ。君の主張だと保険制度自体がダメだということにならないかな。」
B「いや,保険はいいけど,アルゴ・モータースはだめだよ。」
A「でも,生命をお金で計算しているという点では同じだよ。僕の考えでは,ここで大切なのは
[  ]なんだ。つまり,アルゴの車メリディアンを買った人は,その車に欠陥があることを知らなかったんだ。情報を与えられていなかったんだ。一方,保険の場合は,会社の人から説明を受けて同意してから保険に入るだろう。それはある意味で,自分の命がお金で計算されることに同意しているんだ。でも,映画の中で事故にあった人,あるいは,実際にフォードのピント車の火災で事故にあった人は,車の欠陥について知らされていなかったんだ。」
B「なるほど,そんな気もするけど,でも僕は人の命の重さということはそんなもんじゃあないと思うな。」
A「映画の中で,技術者パベルは気の毒な感じで出ていたけど,でも披はあの電気系統の欠陥について一番よく知っている者としての責任があったと思うんだ。」
B「いや,技術者パベルは一応会社には欠陥についての報告書を出しているんだから,あとは会社の責任だよ。」
A「でも,事故が起こって人が焼死していることはニュースなどで知っていたはずだよ。よく黙っていたなあ。あきれるよ。同じ技術者として。」


(1) リスクマネジメント(risk management)

(2) トレード・オフ(trade-off)

(3) カズイストリー(casuistry)

(4) インフオームド・コンセント(informed consent)

(5) ホイッスル・ブローイング(whistle blowing)


---------
正解は4
---------

ここで取り上げられているフォード・ピント事件(こちら)は功利主義の3手法(こちら、また問題2-2にて出題)の1つである費用便益分析を考える上で取り上げられることが多い事例です。これは、
  リスク=生起確率×被害の程度
という、映画「訴訟」での「計算屋」(リスクマネジ専門家)言うところの「簡単な保険数理」です。

さて、問題文の会話の中身を見てみましょう。

  1. 最初、Bが憤慨しています。これは、フォードピント事件の教訓のコア部分、倫理でいう功利主義の費用便益分析(効用計算)と、企業の費用便益分析の区別の問題です。これについては、先ごろの談合問題も絡めて考えることができます。(こちら
  2. やがてAが「そもそもこの話のどこに問題があるんだろう」と言います。事例の中に倫理上のテーマを探ろうとしているわけです。
    その後の一回りの会話は、保険というシステムの持つ功利主義的な部分についてです。これも省略します。
  3. その後、設問を含むAのセリフですが、これは、メリディアンのユーザーが情報を与えられていないということ、その後の保険加入者の「説明を受けてから同意」という対比から、メリディアンユーザーが公衆であったということを言っていますね。つまりメリディアンユーザーはインフォームドコンセントを与えることができなかったということになります。この部分は、そういう話です。
  4. Aの最後2つのセリフ、パベルに対する批判は、警笛鳴らしをしなかったことへの批判です。

整理すると、この会話には、功利主義に関する問題(倫理上の費用便益計算と経営うえの費用便益計算の違い)、インフォームドコンセント、警笛鳴らしの3つのテーマが含まれていると判断されます。そして設問は、真ん中のインフォームドコンセントの部分についてです。
ということで、3つの倫理上のテーマを盛り込んだ会話の中の一部についての設問なので、フォード・ピントの話が出てきているにもかかわらず、インフォームドコンセントの話が設問になっています。

なお、選択肢についての説明をひととおりしておきます。
(1) リスクマネジメント・・・・潜在的危険要因であるリスクについて、対処方針を決め、リスクを特定して分析評価し、対策を行う管理手法です。
(2) トレード・オフ・・・・相反問題。一方を改善することが他方の改悪になってしまう状態です。たとえば製品価格と性能など。
こちら
(3) カズイストリー・・・・決疑論。倫理上の問題解決手法で、線引き問題のことと考えて問題ありません。
(4) インフォームド・コンセント・・・・よく知らされた上での同意。
こちら
(5) ホイッスル・ブローイング・・・・警笛鳴らし。内部告発と似ていますが、少し異なります。
こちら

戻る


2−12 次のハインリッヒの法則の説明において,[  ]内に入る数字の組合せとして正しいものを(1)〜(5)の中から選べ。

 ハインリッヒの法則は,米国のハインリッヒ(1886〜1962)氏が労働災害の発生確率の分析を行って導き出したものである。それによると1件の重大災害の裏には,[ ア ]件のかすり傷程度の軽災害があり,その裏には[ イ ]件のヒヤリとしたり,ハッとした体験があるというものである。大きな事故が生じる前には必ず前兆があるということをよく理解して対策を行うべきであるといえる。

(ア) (イ)
(1) 19 200
(2) 29 300
(3) 39 400
(4) 49 500
(5) 59 600

---------
正解は2
---------

ハインリッヒの法則は、1件の重大事故の影には29件の小さな事故、300件のヒヤリ・ハットがあるというもので、六本木の回転ドア事故などはまさにそれに近い数字になっていたとされます。
これはもう知識問題で、「こんな数字まで知らなくても技術士は務まる」という声も聞えてきそうですが、
    「知らない」
   =「安全確保に関する勉強をしたことがない」
   =「安全確保について真剣に取り組んだことがない」

ということになってしまうようなレベルの知識です。
こういう一般的法則の数字は、たとえば設計計算の安全率や化学におけるアボガドロ数みたいなもので、「その世界の基礎的数値」であり、それを知らないということは「素人」ということになります。「安全率が2でも3でも関係ない。割り引くっていうことを知ってれば十分だろう」と言っているようなものだと思います。

戻る


2−13 日本技術者教育認定機構(JABEE)に関連する次の記述について,正しいものは○,誤りは×として,最も連切な組合せを(1)〜(5)の中から選べ。

ア)日本技術者教育認定制度とは,大学など高等教育機関で実施されている技術者教育プログラムが,社会の要求水準を満たしているかどうかを外部機関が公平に評価し,要求水準を満たしている教育プログラムを認定する専門認定(Professional Accreditation)制度である。

イ)日本技術者教育認定基準(2004-2006年度版)の中の,「基準1学習・教育目標の設定と公開」には, (b)技術が社会や自然に及ぼす影響や効果,および技術者が社会に対して負っている責任に関する理解(技術者倫理)という項目がある。

ウ)技術者教育の質的同等性を加盟国の間で相互承認する協定であるワシントン・アコード(WA)への加盟を,JABEEは,その設立目的の「国際的に通用する技術者の育成」を担保する需要な柱として達成目標に掲げてきた。 日本は2005年に正式加盟国となった。

エ)JABEEで認定された年度に教育プログラムを修了・卒業すると,文部科学省所管の技術士制度における技術士第一次試験が免除され,自動的に技術士補となる。

(ア) (イ) (ウ) (エ)
(1)
(2) ×
(3) ×
(4) ×
(5) ×

---------
正解は2
---------

(ア)・・・・○ その通り。JABEEトップページにどーんと出ています。こちら
(イ)・・・・○ その通り。
こちらこちらに出ていますが、知らなくても、技術者倫理に関する大学カリキュラムが必要ということは感覚的にわかると思います。
(ウ)・・・・○ その通り。
こちらに出ています。ただ、そのことを知っている人は少ないだろうし、それが2005年ということはさらに知られていないでしょうね。
(エ)・・・・× JABEE認定後に卒業すると一次試験免除になるのは確かですが、それは一次試験合格と同じで、修習技術者になるだけであって、技術士補登録しない限り技術士補にはなりません。なお、
JABEE認定から一次試験免除認定まで時間がかかるため、認定直後の卒業生は1年間待たなければならないようです。

以上、(ア)〜(ウ)がわからなくても、(エ)だけわかれば正解は絞り込めます。

戻る


2−14 岩石を使った治療法とその対応についての次の記述を読み,ア)〜エ)のうち,技術者としてふさわしい対応の最も適切な組合せを,(1)〜(5)の中から選べ。

 人,動物の疾病の診断・予防・治療に使用される機械用具(医療機器)については,安全のために製造,販売,取扱などは届出や認可が必要であることが薬事法で決められている。このために治療効果があっても商品として勝手に広告・販売することは認められない。
 赤外線による温熱療法はよく知られているが,ある岩石を加熱して身体の近くに置くと,病気の改善が認められた。 しかし,これは類似のほかの岩石には見られないために,この岩石特有の効果のようである。このために各種分析を試みたが,効能の要因の理論的な解明まではいかなかった。この効果を知った企業が,治療設備を作って一般に公開することを提案してきた。

[技術者の対応]
ア)効果があるのは明らかなので,治療効果があることをマスコミを使って広める。

イ)治療法としては認められていないので,治療効果があることが明確でも医療用具にはならないので,健康器具として紹介する。

ウ)効果があることは多くの例が示しているし,企業は治療機械として製品化したいのであるから,企業に岩石を使った治療法の権利を委譲して治療機械の認可については黙っている。

エ)効果があっても理論的解明が出来ていないので,学会発表などの方法により現状を社会に報告することとし,すぐには製品販売を行わない。


(1) ア,イ
(2) ア,ウ
(3) イ,ウ
(4) イ,エ
(5) ウ,エ


---------
正解は4
---------

(ア)・・・・× たとえ商品化していない段階であっても、広告行為は適切とはいえません。私は薬事法などに詳しくはありませんが、よくて非倫理的行為、悪くて法律違反です。
(イ)・・・・△ 法的には問題ないと思われますが、
   「病気の改善が認められた」というのがどこまで確実なのか(改善が本当にその岩石の効果なのか)問題文からはわからないこと
   加熱する等の情報からは何らかの放射物(輻射熱含む)と思われ、副作用等の情報が取得できていないと思われること
から、健康器具として紹介することが、NSPE基本綱領の真実性原則「公衆に表明するには、客観的でかつ真実に即した方法でのみ行う」に照らして、そこまで妥当といえるか、倫理的には疑問が残ります。
(ウ)・・・・× 黙っているというのはいけません。感覚的にもおかしいし、公正業務原則「欺瞞的な行為を回避する」にも反します。
(エ)・・・・○ 前述の真実性原則に照らしても、最も正しい方法と思われます。


以上により、適切と確信できるのがエのみですが、選択肢から(4)以外にありません。

戻る


2−15回転ドアに関する次の記述を読み,ア)〜エ)について,正しいものは○,誤りは×として,最も適切な組合せを(1)〜(5)の中から選べ。

 高層ビルではビルの入口を強い風が通るため二重房が使われるが,入が多く出入りするビルでは両方とも開く時間があり,暖冷房効率が低下する。この暖冷房効率改善に回転ドアは有効な手段とされ,そのデザイン性とともに広く普及したが,大型のモータ駆動の回転ドアの運動部と壁面の間に子供が挟まれることによる死亡事故が発生した。直接的な原因は子供が危険防止のための監視センサーの死角に入ったこと,回転ドアの質量が大きく異常検出後の回転ドアが急停止できずにオーバーランしたことなどによる。この回転ドアは軽量化のために主要部にアルミニウムを使う設計であったが,日本に導入された時点で大型化に伴う強度維持のためにステンレス鋼,鉄鋼等が使われる改造設計がなされ,運動部分の重量も大幅に増加した。
 この事故は社会問題となり,回転ドアの総点検が行われ,使用中止の対応がとられたものも多い。

ア)モータ駆動の回転ドアを導入するに当たり,材料,使用方法など設計条件が異なるため改造することにより回転・移動部分の重量が大幅に増して,設計思想が異なってしまった場合には,安全性に関しては必ずしも従来の構造による実績をそのまま引き維ぐことは出来ない。新規設計としての十分な検討が必要である。

イ)死亡に至らない回転ドアによる挟み込み事故はこれ以前にも多くあったが,対策は進んでいなかった。これは電車やエレベータなどの往復型の自動ドアとは構造が異なるために安全対策が参考にならないためである。

ウ)モータ駆動による回転ドアの事故に対して,原因解明・対策選定が完了した後で,しかも原則として子供が入らないところで手動で重量が軽い回転ドアなのに使用中止にしたままにしているところがある。廃止,再開のいずれも採らないことは事故を自分の問題と考えないことであり,別な事故発生の誘因ともなる。

エ)事故防止のためには,監視のためのセンサーを多重に設置することが最も重要である

(ア) (イ) (ウ) (エ)
(1) ×
(2) × ×
(3) ×
(4) × × ×
(5) ×

---------
正解は2
---------
(ア)・・・・○ そのとおり。これは迷わないと思います。

(イ)・・・・× 類似機構の事故が参考にならないというわけではないでしょうし、またそのような判断が対策遅れの理由になるわけでもありません。

(ウ)・・・・△ 以下の理由により、適否判断ができにくくなっています。
●手動回転ドアの使用中止理由が明確ではありません。通常考えると、使用可否の最終判断は技術者ではなく、技術者の意見を参考にした経営者になると思われ、そこには技術判断に加えて経営判断が加わることが考えられます。それらの判断基準に関する情報がないと適否判断はできません。
●使用中止の状況に関する情報がありません。「原則として子供が入らない」のであって、「入れない」とは書いてありません。また、お年寄りなど判断力や動作に衰えのある利用者も考えられます。そういった状況の中、単に「使用禁止」の紙が貼ってあるだけの状態から、ロープその他で入れないようにしてあるもの、さらには何らかの方法で回転しないようにしてあるなど、どのような状態で使用禁止にしているのか(使用できるが禁止なのか、使用不能なのか)わかりません。
●「自分の問題と考えないことである」という判断理由が書いてない。どのような客観的根拠をもってそのように判断しているのか不明である。もしその判断根拠が「廃止・再開のいずれも採らないこと」であれば、それだけの理由でそのように判断するのは不適切である。

(エ)・・・・× 事故発生要因を明確にして予防措置を取ることが最も重要です。事故発生時の監視をしても効果は低いと思われます。


以上のことから、(ウ)の適否が判断できない状態です。特に廃止・再開の決定をしないことが問題を自分のものとしていないと決め付けるあたりは、客観的議論ではないと思わざるを得ません。
もし、(ウ)のような記述をした公表公文書等があれば、「それを知っているかどうか」の問題となるので、たとえ「そんなの知らねーよ。重箱の隅つついてんじゃねーよ」という意見が出たとしてもそれはそれで筋が通るのですが・・・・
さらに、これを×とした場合にフィットする選択肢(4)があることも考え合わせると、非常に適切性を欠いた問題だと思います。

戻る