ランキンサイクル
【問題解
説
】
令和
2
年度
III-14
汽力発電に関する次の記述の、 に入る記号と
数
値の組合せとして、最も適切
なものはどれか。
下図は気力発電の
T-s
線図と熱サイクルを示したものである。図
A
の
T-s
線図において断熱
膨張を表す部分は である。また、図
B
における各部の汽水の比エンタルピー
[kJ/kg]
が、下表の値であるとき、この熱サイクルの効率の値は、
[%]
である。た
だし、ボイラ、タービン、復水器以外での比エンタルピーの
増
減は無視するものとする。
答え ②
【詳しく解
説
】
ア
イ
( h1 – h2 )
/ ( h1
–
h3 ) =
(3349 – 1953 ) / (3349 – 150 ) x 100 = 43.6%
従
って「イ」は
43.6
を選
択
するので正解の組合せは②になります。
【解
説
】
図
A
はボイラと蒸気タービンから構成される代表的な熱サイクルであるランキンサイクル
を
T(
温
度
)
と
s(
エントロピー
)
で表したもので、図
B
はこのランキンサイクルを構成する機器
間の接続と、流れる水・蒸気の比エンタルピーの記号
h1,h2,h3
を付記したものです。
図
A
の
T-s
線図において断熱膨張を表すプロセスは
D
→
E
のタービン
内
部における蒸気の膨
張過程なので「ア」の中の
D
→
E
が記載されている②又は④が該当します。
次に「イ」の熱効率を計算します。ランキンサイクルの熱効率は、タービンで動力に費や
されたエネルギーとボイラーに供給されたエネルギーの比で表されます。比エンタルピー
の関係で言えば
(
タービンで低下した比エンタルピー
) ÷ (
ボイラーで上昇した比エンタルピー
)
で計算されます。タービンで低下した比エンタルピーは
h1-h2
、ボイラーで上昇した比エ
ンタルピーは
h1-h3
なので、熱効率は
A
点
→
B
点
(
断熱過程
)
:
A
点は復水器出口の水の
状
態を表します。
A
点の水は給水ポンプ動
力によって
内
部から熱量が加わり、少し
温
度の高い
B
点に移行します。
B
点
→
B
‘
点
(
熱交換過程
)
:
B
点はボイラー入口の水の
状
態を表しますが、
B
点
→
B
’
点の過程
では燃
焼
ガスの熱によって蒸発管部分で水が加熱され、水と水蒸気が混合した
状
態とな
り、
温
度が上昇します。
B‘
点
→
C
点
(
熱交換過程
)
:ボイラの蒸発管にて更に加熱され、
圧
力は
B’
点に於いてボイラ
の設定
圧
力に到達し飽和蒸気
温
度になります。ここからから
C
点まではボイラーの設定
圧
力を保ったまま加熱され、
温
度はそれ以上には上昇せずにエントロピー
(
およびエンタル
ピー
)
が
増
大します。
C
点
→
D
点
(
熱交換過程
)
:ボイラの汽水分離ドラムでは熱水と飽和蒸気に分離され、下半
分が熱水、上半分が飽和蒸気になります。この上半分の飽和蒸気はボイラーに
内蔵
され
た過熱器によって蒸気が更に過熱されて蒸気
温
度は
D
点まで上昇します。下半分の熱水
は汽水面で蒸発して飽和蒸気になって行きます。
D
点
→
E
点
(
断熱膨張過程
)
:過熱された蒸気はタービン入口に供給されてタービンロータ
の羽根を回転させながらタービン出口の復水器へ排出されます。この過程で蒸気はター
ビン
内
で仕事をしながら断熱膨張します。この断熱膨張過程では
温
度が下がり、エント
ロピーは少し
増
大します。
E
点
→
A
点
(
熱交換過程
)
:復水器ではタービンから排出された蒸気を冷却することで液体
の水に
変
化させますが、この過程
E
点
→
A
点では
温
度は
変
化せずエントロピーのみ減少し
ます。
左記の問題
(
令和
2
年度
III-14)
の図
A T-s
線図と図
B
機器接続図に詳細な
説
明を加えたも
のを各々図
C
と図
D
として上に示します。図
C
の
T-s
線図に付した点の記号
A
、
B
、
B’
、
C
、
D
、
E
を、図
D
の機器接続図にも付してあります。
図
C
図
D
ランキンサイクル
【類似問題の詳しい解
説
】
注:熱力学におけるエントロピー
s
は
単
位がジュール
J
/
ケルビン
K
の、
状
態量を表す
示量を言います。難しい
概
念に基づく
状
態量で電気電子部門ではあまり用いないもの
なので、ここではこれ以上解
説
しないことにします。
比エンタルピーから発電機出力を計算する方法
比エンタルピーから発電機出力を計算する方法を解
説
します。比エンタルピーの
単
位
はジュール
J
/
kgで、
単
位重量あたりの熱量
(
エネルギー
)
の大きさです。この比エン
タルピーに流体の重量を乗することで、流体が持つエネルギーの大きさが得られます。
例えば、問題の図
B
の蒸気流量が
1,000kg /
秒だと仮定すると、タービンで得られる
時間あたりのエネルギー
(
動力
)
は
( 3349
J
/kg
–
1953
J
/kg) x 1,000kg/
秒
= 1,396,000
J
/
秒
ここで
1 W = 1
J
/
秒 なので、このタービンへの入力動力は
1,396 kW
になりま
す。
仮にタービンの
内
部効率を
η
T = 0.9
とし、軸で接続される発電機の効率を
η
G = 0.9
とすると、得られる発電機出力
(
有効電力
)
は、
1,396
x
0.9
x
0.9
=
≒
1,131
kW
となります。発電機の皮相電力は有効電力を力率で割ったものなので、発電機運転力
率を仮に
0.9
とすると、皮相電力は
1131 / 0.9 = 1,256KVA
となります。このように、
蒸気タービン入口と出口のエンタルピーの差を用いて発電機の出力電力を算出するこ
とが出来ます。
原子力発電では原子
炉内
のボイラ
(
蒸気発生器
)
で、石炭火力や重油焚き火力等では燃
焼
ボイラで蒸気を発生させ、その蒸気で蒸気タービンを廻します。この蒸気のループ
は主に、ボイラ、蒸気タービン、復水器などからランキンサイクルは構成されます。
このことから「ア」には 「蒸気タービン」が当てはまります。
理論上最も効率の良い熱サイクルは「カルノーサイクル」です。
従
って、「イ」には
「カルノー」が当てはまります。
従
って④が正解として選
択
されます。
カルノーサイクルを応用した熱機関としては、理想的理
論効率は得られないながら、スターリンエンジンが存在
し、一部の海上自衛隊の潜水艦用動力として用いられて
おります。
【詳しく解
説
】
【類似問題】
平成
24
年
IV-13
IV-13
熱サイクルに関する次の
説
明分の、 に入る語句として正しい組合せは
どれか。
原子力発電や一部の火力発電では、ボイラ、 、復水器などでランキンサイクルを構
成している。ランキンサイクルの効率は、理論上最も効率が良いとされる サイ
クルの効率を上回ることはない。
ア
イ
ア イ
① ガスタービン オットー
② ガスタービン カルノー
③ 蒸気タービン オットー
④ 蒸気タービン カルノー
⑤ スターリングエンジン ディーゼル
「イ」の選
択
肢にある熱サイクルについて解
説
します。オットーサイクルは火花点火
機関であるガソリンエンジンやガスエンジンの熱サイクルです。ディーゼルサイクル
はオットーサイクルのように点火プラグで着火させるのでは無く、燃料と空気の混合
ガスを
圧
縮工程で
圧
縮熱による発火で着火して燃
焼
させるサイクルです。因みにガス
タービンの熱サイクルはブレイトンサイクルと呼ばれており、回転型の空気
圧
縮機で
圧
縮した空気と燃料
(
ガス・液体
)
を燃
焼
器で混合して点火プラグ等により着火して燃
焼
させます。
カルノーサイクルは
温
度の異なる
2
つの熱源
(
高
温
熱源と低
温
熱源
)
の間で動作する仮想
的な可逆熱サイクルの一種で、理論的には最高の効率となる熱サイクルです。可逆熱
サイクルは、熱力学の第二法則によれば実現不可能なものですので、カルノーサイク
ルも実際の熱機関で実現することはできません。
カルノーサイクルは右下図のように等
温
膨張
→
断熱膨張
→
等
温圧
縮
→
断熱
圧
縮のサイ
クルを繰り返すもので、熱効率
η
は下式で表されます
答え ④
η
=
1
-
Q
out /
Q
in
ここで
Qout
は出力熱量を、
Qin
は入力熱量を表します。
理想気体に於いては絶
対温
度だけの関係である下記の式
で表されます。
η
=
1
-
T
1
/
T
2
(T
1
は高
温
熱源、
T
2
は低
温
熱源の絶
対温
度
)
Qin
Qout
この他の身近なものとして、エアコン等に用いられる
ヒートポンプは逆カルノーサイクルとも呼ばれており、
熱機関に動力を加えることで、高熱源から低熱源へ
(
或い
はその逆方向へ
)
熱量を移動させるものです。
ランキンサイクル
【類似問題】
令和元年度
(
再
) III-15
火力発電所における熱効率やその向上方策に関する次の記述のうち、最も不適切なものは
どれか。
① ランキンサイクルの熱効率を向上させるのに効果的な方式の
1
つに再熱があり、このた
めにタービン高
圧
部から出てきた蒸気を再び過熱してタービン低
圧
部に送る装置を過
熱器と呼んでいる。
② 理想的熱機関を表現するカルノーサイクルの熱効率は高熱源の絶
対温
度が高いほど高
くなる。
③ ボイラ、蒸気タービン、復水器等によってランキンサイクルを構成している火力発電
所の熱効率は、蒸気
圧
が高いほど向上する。
④ 火力発電所では、煙突から排出されるガスの保有熱をできるだけ利用して、燃料の消
費率を低くすることが望ましく、節炭器や空気予熱器を設ける場合がある。
⑤ 火力発電所の熱効率向上のため、蒸気タービンとガスタービンを組合わせた複合サイ
クル発電が用いられる場合がある。
①~⑤の回答文を順に検証します。
①はランキンサイクルの効率向上手法の
1
つである再熱をシステムとしては正しく
説
明していますが、タービン高
圧
部から出てきた蒸気をボイラで再度過熱する装
置の名
称
を「再熱器」と記載すべきところを「過熱器」と記載しています。
従
っ
て、不適切な回答文です。
②は理想的熱機関であるカルノーサイクルの熱効率の問題です。カルノーサイク
ルの熱効率
η
は高熱源の絶
対温
度
Th
低熱源の絶
対温
度
Tl
の関係式で表すと、
η
=
1
-
Tl / Th
となります。この式から
Th
が高いほど効率
η
は大きくなることが
判ります。
従
って、この回答文は適切です。
③ボイラ
内
部の蒸気は過熱器を通過する前では飽和蒸気です。飽和蒸気の
温
度や
エンタルピーは飽和蒸気
圧
に一義的に依存しますので、蒸気
圧
が高いほど蒸気
温
度や蒸気のエンタルピーが高くなり、蒸気タービンでの入口と出口のエンタル
ピー落差を大きくすることが出来、効率を上げることが可能となります。
④火力発電所のボイラから出た燃
焼
ガスが持つ熱量は無視できないほど大きいも
のです。この
残
余熱を有効利用する方法として節炭器や空気予熱器が採用される
ことは良くあります。
⑤ガスタービンとガスタービンの排熱を回
収
するボイラ、そしてその排熱回
収
ボ
イラで
駆
動する蒸気タービンのセットは、高効率なコンバインドサイクル
(
複合サ
イクル
)
として、広く事業用火力発電所に採用されています。
従
って、①が不適切なので正解は①になります。
答え ①