最終更新:2024.06.04
問題Ⅲの課題解決問題対策について、建設部門を中心に記しています。
出題内容の予想もしていますが、これは「絶対こうなる」というものではなく、あくまで私の予想です。ただ、技術士会から公表された資料を素直に読むとこういうことだよね、という、それなりに根拠のあるものではあります。
なお、受験対策は人それぞれです。それぞれの立場で、ポイントは変わってきます。また、若年層・熟年層でも変わってきます。 うのみにするのではなく、参考にできるところは参考にするというスタンスでお読みください。
答案用紙 フォーム
模擬練習用答案用紙を用意しましたので、お使いください。
ダウンロード時は1ページですが、1枚目を超えると自動的に2枚目が現われます。
なお、この答案用紙はすごろくさんよりご提供いただいたものです。
選択科目のうち問題Ⅲは、選択科目に関する問題解決能力と課題遂行能力を問います。答案は記述式で、600字詰め答案用紙3枚以内です。
問題Ⅲの内容
- 概念
問題解決能力及び課題遂行能力
社会的なニーズや技術の進歩に伴い,社会や技術における様々な状況から,複合的な問題や課題を把握し,社会的利益や技術的優位性などの多様な視点からの調査・分析を経て,問題解決のための課題とその遂行について論理的かつ合理的に説明できる能力 - 出題内容
社会的なニーズや技術の進歩に伴う様々な状況において生じているエンジニアリング問題を対象として,「選択科目」に関わる観点から課題の抽出を行い,多様な視点からの分析によって問題解決のための手法を提示して,その遂行方策について提示できるかを問う。 - 評価項目
技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)のうち,専門的学識,問題解決,評価,コミュニケーションの各項目
項目 | 筆記試験における 評価内容 | Ⅰ | Ⅱ-1 | Ⅱ-2 | Ⅲ |
専門的学識 | 基本知識理解 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
理解レベル | ①基本 | ①業務 | |||
問題解決 | 課題抽出 | ① | ① | ||
方策提起 | ② | ② | |||
評価 | 新たなリスク | ③ | ③ | ||
技術者倫理 | 社会的認識 | ④ | |||
マネジメント | 業務遂行手順 | ② | |||
コミュニケーション | 的確表現 | ○ | ○ | ○ | ○ |
リーダーシップ | 関係者調整 | ③ |
※表中の丸数字は設問番号です
1.出題形式
2019年度の問題Ⅲの問題文を比較してみましょう。
(機械部門 機械設計 問題Ⅲ-1)
我が国では2010年から2025年までの15年間で,社会全体の高齢化率(65歳以上人口の割合)が23%から30%に大幅に上昇すると予想されている。2025年時点で介護職員は34万人不足する見込みである。このような状況の中で,高齢者の移動,入浴,排泄,他の支援の際に,介護者の負担を軽減するための介護機器,歩行等を補助する介護機器,認知症の人を見守る介護機器などが開発されている。新たな介護機器を開発し,普及させるには,介護される高齢者と介護者の双方のニーズを把握し,それに応じた機器を開発することが必要である。今後もこのような介護機器の役割はますます重要になると考えられ,その開発には最新のロボット技術や情報処理技術などの活用が期待されている。
(1) 介護機器の開発・設計・導入・普及に関して,具体的な介護機器の例を1つ挙げ,機械設計の技術者としての立場で,多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
(2) 抽出した課題のうち最も重要と考える課題を 1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3) 解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(機械部門 機械設計 問題Ⅲ-1)
工業製品の設計・生産・販売のグローパル化の進展に伴い,国際標準化に関する取組の重要性が増している。例えば, JISや社内規格等の国内規格をそのまま使い続けることがビジネス上のリスクとなる可能性があり,国際規格との整合を考慮、して圏内規格を新たに整備あるいは更新することが必要になる場合も考えられる。このような状況を考慮、して,以下の問いに答えよ。□
(1) 具体的な製品の例を1つ挙げ,機械設計技術者としての立場で多面的な観点から国際標準化に関する課題を抽出し分析せよ。
(2) 抽出した課題のうち最も重要と考える課題を 1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3) 解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
赤字の部分は問題Ⅲ-1でもⅢ-2でも同じです。つまり出題テーマが変化するだけで各設問で問われることは変わらないのです。この点は2020年度も変わりありません。
設問1:課題の抽出
設問2:解決策の提示
設問3:新たなリスクとその対策
ということですね。まあつまり問題Ⅰの設問4がなくなっただけで、後は同じです。
2.評価内容(コンピテンシー)の内容
採点基準(コンピテンシー)については問題Ⅰのところで解説しているので省略しますが、問題Ⅰが受験部門全般にわたる専門知識等を求められたのに対して、問題Ⅲは受験科目に関する専門知識になります。この点は異なりますので、問題ⅠとⅢの区別をしっかりつけてください。
例:建設部門において災害がテーマであった場合の科目別のテーマ
科目 | 考えるべき支点・テーマ |
土質基礎 | 斜面崩壊や液状化 |
鋼コン | 地震動等の外力による構造物の損傷 |
都市計画 | 防災都市作り |
河川砂防 | 水害や津波・高潮、斜面災害、土砂災害など |
道路 | 避難路確保、物流幹線のリダンダンシー |
施工計画 | 災害復旧・復興の担い手となる |
建設環境 | 防災と環境の両立や防潮林 |
問題対策としては、問題Ⅰと同じく、以下の4段階で準備されることをお勧めします。
- 社会的重要テーマを絞り込む ※基本的に問題Ⅰと同じです
問題Ⅰと同じく、出題テーマは専門分野と社会経済との関わりといったもの、つまりは社会的重要テーマが出題テーマとして考えられます。ただし、問題Ⅰは部門全体がテーマの範囲でしたが、問題Ⅲは選択科目がテーマの範囲となります。たとえば災害がテーマであれば、建設部門の中でも土質基礎科目は斜面崩壊や液状化などがテーマになるでしょうし、鋼構造コンクリートは地震動等の外力による構造物の損傷がテーマになるでしょう。都市計画であれば防災都市作りが、河川砂防であれば水害や津波・高潮などもテーマになるでしょう。建設環境であれば防災と環境の両立や防潮林などが取り上げられるでしょう。部門全体を対象とした問題Ⅰであれば、もっと大枠の防災減災のあり方などを取り上げ、科目横断的に(というか科目にこだわらず)提案することができますが、選択科目を出題範囲とする問題Ⅲでは、「その科目ならではの切り口」になるものと思われます。
そして、問題Ⅲは2018年度までと基本的に変わっていないことを踏まえれば、これまでの出題傾向から今年出題される可能性の高い重点的テーマをある程度絞り込むことができます。 - 知識を蓄える ※基本的に問題Ⅰと同じです
社会的重要テーマについての知識を蓄えないと、そもそも書くネタがなく、高評価答案は作れません。
知識を蓄えるためには、次の2段階ステップでの取り組みがお勧めです。
- 白書等の文献(建設部門であれば日経コンストラクション等もお勧め)やこのセミナーテキスト・動画等の、「重要テーマについてざっくり説明している資料」でまず大枠を理解する。
- 建設部門であれば国交省や国総研、各種専門誌、さらにはネット情報等で、さらに一歩深い情報を得て、知識を深める。特に国土交通白書は、現状と施策については紹介してあるものの、課題解決に関わるロジック、すなわち現状からどのようにして施策につながっていくのかという部分の説明が薄いので、課題抽出分析→解決の方向性→具体策といったストーリーを理解しようと思うと、白書だけでは不足。
- ロジック構成を考える(課題解決の視点で主要施策と実現策までの流れを整理する) ※問題Ⅰと同じです
(2)で蓄えた知識を活用して、①課題抽出→②課題分析→③解決策の提案→④新たなリスク抽出→⑤その対策というロジック構成を考えます。
文章を書くこととロジックを考えることを同時にやったりせず、まずロジック構成を整理して書くべきことを全部決めてから文章を書くことが重要です。
③は現実の施策等に一致することが望ましいと思われます。
④は、2013~2018年度の問題Ⅲの設問3に見られた「解決策実現に向けてさらに一歩踏み込んだ、さらなる具体策」に近いものになるでしょう。すなわち、「白書に書いてあること」、いわば「国等が提唱する大きな方向性、スタンダード」なので、これを地域や現場で実現しようとすると様々な問題が出てきます。たとえば老朽化インフラの予防保全であれば、その担い手はどうするのかとか、予防保全に転換するためには現に損傷しているインフラを全部修復しないといけないが、そのための予算がそもそもないとかいったことです。ちなみに④は専門技術的視野だけにならず、幅広い視野で考えることが求められますが、これは「人・モノ・カネ」の視点で考えるようにするといいでしょう。
そして⑤は④への対策なので、これが最終的な実現策になることもありますし、さらなる改善策になることもあるでしょう。また提案とは別の二次リスク対策になることもあると思います。いずれにせよ、これについては白書に書いてある内容から一歩先に進んで、実際に現場で実行されている施策等であることもあれば、受験生自身が実務の中で経験した実例を書いたほうがいいこともあるでしょう。
以上の①~⑤は、骨子にまとめておくといいでしょう。なお、この骨子は経歴票の業務内容詳細(小論文)で用いたものと似ていますが、解決策提案で終わらず、新たなリスクとその対策まで考えているという点で異なります。
問題 | 問題分析→課題抽出 | 方策提起 | 新たなリスク | その対策 |
困ったこと 重大性・困難性等について読み手が 納得できるものがよい 多様な視点が求められるので、 技術だけでなく予算や担い手など 幅広く考えるといい | 問題の発生原因・発生機構などを分析してなすべきこと (課題)を抽出 | 問題分析結果から必然的に求められる解決策 基本的には実際の施策や取組みに沿ったものがいいと思われる | 解決策を提案したがための二次リスク、 あるいは解決策実現に際してのボトルネック 技術的なものだけでなく、コストや期間、リソースや合意形成、環境影響や安全など幅広く考えるとよい | 新たなリスクへの対応策 実際の施策等を踏まえることが望ましい |
設問1 | 設問2 | 設問3 | ||
- 読みやすい文章を書く力を身につける ※基本的に問題Ⅰと同じです
最後は答案用紙に文章を書かねばなりません。後述の問題Ⅱであれば、箇条書き等が有効なこともありますが、ロジック主体の問題Ⅰ・Ⅲでは、箇条書きだけではロジックをうまく表現できません。
そうすると、簡潔明瞭で読みやすい文章を書く力が必要になってきます。従来の試験でもそれは必要なことでしたが、2019年度からは「コミュニケーション」という評価項目が明示されているので、採点者は読みにくい文章・わかりにくい文章に対してマイナス評価をすることができるようになっています。
文章力を身につける即効的な方法はありませんが、お勧めは合格答案を読む・引用するということです。APEC-semiでは合格答案実例集を提供していますが、こういったものを活用し、複数の合格答案を読み、読みやすいと思ったもの、自分の文章の感性に合っていると思うものを選んで、これを「お手本」として文章を書いてみるといいでしょう。言い回しとか言葉の使い方などを「盗む」わけですね。さらには「写す」という作業を繰り返して文章スタイルを身につけて合格した人もいます。
ロジック構成を考えることと、文章を書くことは、自分の頭の中にある答案イメージのアウトプットです。勉強をすること(このテキストを読むことや講義を聴講することを含みます)はインプットです。
しかしインプットだけがんばってもアウトプットの練習をしないと高得点を取れる答案は作れません。インプットと同じくらいアウトプットの練習をしてください。
- 土質及び基礎
- 2016年度は地質リスクとICT・生産性、2017年度は災害と生産性向上、2018年度は担い手不足に伴うイノベーションによる品質確保、防災減災老朽化対策、2019年度には維持管理(予防保全)と地盤の不確実性、2020年度はICT導入と防災減災、2021年度は環境問題に配慮した新技術開発・導入と維持管理、2022年度は生産性の向上と災害に対するリスク評価が出題。これを受けて、2023年度は地盤の不確実性と人材育成、維持管理のいずれかあるいはこれらが複合した問題が出される可能性が高いと予測したが、災害被害低減に向けた地盤構造物と環境負荷低減が出題された。
- これを受けて、2024年度は老朽化地盤構造物の維持管理と人材育成、そして能登半島地震を踏まえた災害リスク評価といった問題が出される可能性が考えられる。維持管理は予防保全を原則とするが、コンクリート構造物等と比較した場合に、地盤構造物は自然材料・地盤であることによる不均質性や不安定性(間隙水圧変化に伴いせん断強度が変化するなど)があり、そのため経験工学的判断を必要とする。さらに構造物の数もコンクリート構造物等に比べて膨大にある。このため既往データの有効活用やサウンディングや物理探査等を活用した補完調査といったものが必要であるし、人材育成はそういった地盤の不確実性もあって経験工学判断のウェイトが高くなり、属人性が高いのが土質基礎分野の特徴なので、OJT&OFF-JTやナレッジマネジメントを積極的に導入する必要がある。このような「土基礎科目だからこその特徴」を念頭に置くとよいと思われる。
- 鋼構造コンクリート
- 鋼構造については、2016年度は維持管理とインフラ海外展開、2017年度はICT・生産性向上と巨大災害、2018年度は維持管理と想定外外力、2019年度は労働災害と劣化・損傷という予想外の出題であった。
- コンクリートについては、2016年度は初期欠陥防止と温暖化緩和策(変化球ばかり)、2017年度は生産性向上と維持管理、2018年度は防災減災と生産性向上、2019年度は海外インフラ整備、温暖化ガス削減が出題された。
- 2020年度は鋼構造とコンクリートが統合され、BIM/CIMの活用と性能規定化の推進が出題された。鋼構造・コンクリートいずれについても生産性向上を予想していたのでその点では近い出題であったと思われる。
- そして2021年度は新材料・新工法活用と予防保全型メンテナンス推進、2022年度は維持管理と生産性向上(SCM)が出題されたため、2023年度は防災減災を中心に、特に省力化省人化・ICT活用といった視点での生産性向上や検査、解析手法等を含む性能設計などについて準備しておくとよいと予想したが、技術伝承と技術者育成と業務効率化が出題された。業務効率化は予想通りであったが、災害は出題がなかった。
- これらを受けて、2024年度は防災減災特に能登半島地震を受けた想定外外力への対応(復旧の容易性も含む)、インフラメンテナンス2.0や非破壊検査・AI活用点検など、鋼コン分野の特徴に着目した防災減災と維持管理に関する出題を中心に、様々な施策や技術について幅広く情報を収集して勉強しておくことが望ましいと思われる。
- 都市計画
- 1問は2015~2019年度と5年連続コンパクトシティ関連(立地適正化計画や都市のスポンジ化)で、もう1問は2016年度が空き家対策、2017年度が市街化区域内農地、2018年度が被災地の復興まちづくり、2019年度は都市のスポンジ化と都市構造再編、2020年度はグリーンインフラとコミュニティ組織、2021年度はコロナ禍を踏まえた都市の課題と歴史遺産観光資源活用、2022年度は駅まち空間再構築と大規模住宅団地の再生が出題されたので、2023年度は1問はまちづくりに関する問題、もう1問はSDGsの視点すなわち『住み続けられるまち』の視点での問題と予想していたが、空き家対策とカーボンニュートラル・Well-being実現を目標とした緑の基本計画改定(仮想事例)が出題された。まちづくりと持続性という大きな方向性は予想通りだったが、具体的な切り口が予想以上に絞り込まれ、仮想事例は予想外であった。
- これを受けると2024年度は、これまでと同じく1問はまちづくり、もう1問はSDGsすなわち持続性の視点で、切り口がある程度絞り込まれたものになると予想される。具体的な切り口としては、テレワーク拠点・二地域居住などを含めたまちづくり、高齢者に優しいまち(グリーンスローモビリティなどを含む)、分散型エネルギーやスマートシティ、防災(能登半島地震を踏まえた木造家屋密集地、液状化、都市水害などの強靱性)など様々なものが考えられるので、いろいろな施策や取り組みを幅広く勉強しておくことが求められると思われる。
- 河川砂防
- 2016年度はICTと災害、2017年度はICT・生産性向上と維持管理(ストック活用)、2018年度はICT活用、災害ソフト対策、2019年度は自然災害時の防災重要インフラ機能維持と西日本豪雨を踏まえた減災対策、2020年度はデータプラットフォームを前提としたICT活用と総合的な土砂管理、2021年度は水防分野での遠隔化と地震津波による水防対策施設被災状況把握におけるセンシング情報活用、2022年度は水災害リスクを踏まえた防災まちづくりと水災害に対する防災対策事業の事業評価手法が出題されたのを受けて、2023年度は災害のほかに「維持管理問題(特にICTを活用した維持管理、ストック効果の最大化)、土砂供給や景観など環境配慮系問題について準備しておくといいのではないか」としていたが、既存ストックを有効活用した水害対策と際涯情報の提供・共有が出題され、ストック効果の最大化という視点は予想通りだったが、2年続けて2問とも水災害だけなのは予想外。
- 2024年度は再度水災害(流域治水や能登半島地震を踏まえた土砂災害)と維持管理問題(特にデジタル技術を活用した維持管理)、土砂供給や景観など環境配慮系問題について準備しておくといいのではないかと思われる。
- 港湾空港
- 2016年度は人流・物流(Ⅲ-1として3年連続)と維持管理、2017年度は民営化と災害、2018年度は生産性革命と工期遅延挽回方法、2019年度はインフラシステム輸出とライフサイクルコスト縮減、2020年度はインバウンド対応と担い手不足対応(生産性向上)つまり人流とICT活用、2021年度は港湾空港の地方の経済活性化への貢献と脱炭素化、2022年度は国際物流・人流に着目した地域経済振興と護岸等の耐震性調査・耐震改良が出題されたのを踏まえて、2023年度はICT活用をさらに進めた生産性革命プロジェクト諸施策と維持管理関連と予想していたところ、グローバルサプライチェーン最適化に貢献する港湾空港と工事の生産性向上のための技術改善高度化が出題され、生産性革命は方向性は予想通りであったが、グローバル化は予想外であった。
- 2024年度は維持管理関連と能登半島地震も踏まえた災害対策を中心に準備しておくといいのではないかと思われる。
- 電力土木
- 災害と維持管理が二大テーマで、2016年度は災害、2017年度は維持管理(災害の視点とリプレース)、2018年度は経年劣化対策と不適切な品質管理・コンプライアンス、2019年度は電力土木施設の維持管理運用と技術継承、2020年度は環境負荷低減と維持管理運用、2021年度は人材育成と維持管理、2022年度は気候変動による外力増大対応維持管理と再生可能エネルギー電源計画における合意形成が出題された。これを踏まえて2023年度は維持管理とICT活用による生産性向上と予想したが、技術継承と環境変化を踏まえたエネルギー問題が出題され、全体に予想外であった。
- 2024年度は改めて維持管理とデジタル技術活用による生産性向上について準備しておくといいのではないかと思われるし、能登半島地震を踏まえた災害対策も考えておくといいと思われる。
- 道路
- 2016年度はメンテサイクルと事業評価、2017年度は暫定2車線と地震時緊急輸送道路、2018年度は高速道路が物流に果たす役割と大雪による交通障害、2019年度は東京オリパラ開催時の交通マネジメントと2巡目橋梁点検、2020年度は自転車の活用推進と防災対策、2021年度は降雪に伴う大規模車両滞留防止と暫定2車線、2022年度は多様化するニーズへの対応(ウォーカブルなど)と2巡目定期点検を踏まえた高速道路の維持管理が出題されたことから、2023年度はコロナ禍を踏まえた地域公共交通のあり方や物流デジタル化や次世代モビリティなどのICT活用、災害に対する強靱性といったものを予想していたが、時代のニーズに応えた交通安全とSA・PAが出題され、かなり予想外の出題であった。
- 2024年度は、改めてコロナ禍を踏まえた地域公共交通のあり方(地域公共交通計画)や物流デジタル化や次世代モビリティなどのICT活用、災害に対する強靱性(能登半島地震を踏まえた地方道路の強靱性や冗長性)などを中心に準備を進めておくといいのではないかと思われる。
- 問題Ⅱも含めて行政目線での出題・タイムリーな出題が目立つ。施策をどれだけ知っているかが勝負になってくる傾向が強いので、国交省HP等で道路行政について理解を深めておくべき。
- 鉄道
- 2016年度は駅改良と生産性、2017年度は豪雨対策と地震防災減災、2018年度は駅・駅周辺整備、鉄道施設の維持管理、2019年度は都市鉄道における施設整備、地方の鉄道施設の維持管理、2020年度は水害に対する鉄道施設強化と都市鉄道における定時制の強化、2021年度は保守の効率化なども踏まえた工事作業時間確保と地域鉄道での列車脱線事故防止、2022年度は鉄道架線橋梁の災害対策とコロナ禍を踏まえた鉄道工事コスト縮減が出題されたことから、2023年度はコロナ禍を踏まえた地域公共交通(まちづくりや他の公共交通機関とも連携した地域公共交通計画)と維持管理(地方鉄道だけでなく、都市鉄道も含めて老朽化に伴う運行トラブル多発を踏まえて)および踏切事故(列車対人、列車対車両)対策と予想していたが、大都市圏中心部での鉄道建設とコンクリート・モルタル片の剥落被害防止が出題され、後者が維持管理という点で予想の範囲内であったが、前者は予想外であった。
- 2024年度は再度コロナ禍を踏まえた地域公共交通(まちづくりや他の公共交通機関とも連携した地域公共交通計画)と災害(能登半島地震を踏まえ)、さらには大規模被災した地方鉄道がBRTも含めたバス路線に転換している状況も踏まえた災害後の地方公共交通のあり方および踏切事故(列車対人、列車対車両)対策について準備しておくといいのではないかと思われる。
- トンネル
- 2016年度は災害と品質確保(生産性や教育?)、2017年度は環境(低炭素・自然共生)と生産性向上、2018年度はメンテナンスサイクル(ただし災害や人口減少、国際競争にも言及させる)と環境保全、2019年度は労働・公衆災害防止とトンネルの安全性・公益性・品質確保、2020年度は補助工法の要否判断(福岡地下鉄を踏まえたか?)と状態変化に伴う変状リスク、2021年度は山岳トンネルで特殊地山、シールド・開削でトンネル要求性能低下リスク低減、2022年度は山岳トンネルでトンネル工事の周辺環境影響、シールド・開削で様々な要素を作用としての評価が出題されたのを踏まえ、2023年度は技術継承・生産性向上を中心に地質リスクに対する備えやICT活用に関する出題を予想していたが、山岳トンネルは完成後作用外力影響で発生する変状の抑制や改修、シールド開削は耐震性能を保有するために構造計画出題され、地質リスクに対する備えという点では予想の範囲内といえなくもないが、全体としては予想外であった。
- 問題Ⅲは社会的重要テーマでの出題が本来なのだが、トンネル科目に関しては専門技術的課題解決の視点で出題していると思われ、そのテーマはトピックも踏まえていると思われるので、品質低下や事故、あるいは環境影響が、想定困難な地質状況などに起因して発生するような出題テーマが予想される。
- 施工計画
- 2016年度は労働力不足と杭データ流用を受けての品質確保、2017年度は民活とi-Con、2018年度は労働災害と生産性向上、2019年度は技能労働者の労働環境と建設リサイクル、2020年度は過疎地での維持管理と担い手確保育成、2021年度は週休二日が前提の多工種工事の仮想問題と適正価格入札、2022年度は災害時の応急復旧工事と建設生産プロセスにおける課題解決が出題されたのを踏まえ、2023年度はICT活用を予想したが、カーボンニュートラルへの取組みと週休2日確保が出題され、2問目は解決策にICT活用が不可欠と思われるため予想の範囲内であったが1問目は予想外であった。
- 2024年度は、担い手確保(担い手が少ないことをICT活用で補うのではなく、担い手をいかに増やすか、あるいは減らないようにするか)と、そのための解決策ともなるデジタル技術活用(建設DX含む)や現場の労働安全衛生管理といったテーマ、また担い手確保につながるが適正な契約関連の出題が予想される。また能登半島地震を踏まえて再度災害時の迅速な復旧工事対応が出題される可能性もある。
- 建設環境
- 2016年度は温暖化適応策と災害復旧復興における環境配慮、2017年度は生態系ネットワークと再生可能エネルギー、2018年度はグリーンインフラを組み合わせた防災・減災とエコシティ、2019年度は生物多様性の保全再生と都市と緑・農が共生するまちづくり、2020年度はヒートアイランド現象とグリーンインフラ、2021年度は生態系ネットワークの空間配置と低炭素・脱炭素まちづくり、2022年度は河川基軸の生態系ネットワークとコロナ後のグリーンリカバリーが出題されたのを踏まえ、2023年度はICT活用(スマートシティ、再エネ、スマート一次産業など)と地域市域循環共生圏、歴史風致や景観形成を含めた地域の活性化、防災や老朽化インフラ維持管理と環境保全の両立などを予想したが、脱炭素型まちづくりと河川環境保全・影響緩和が出題され、全体に予想外であった。
- 2024年度は改めてICT活用(スマートシティ、再エネ、スマート一次産業など)と地域市域循環共生圏、歴史風致や景観形成を含めた地域の活性化、防災や老朽化インフラ維持管理と環境保全の両立などについても勉強しておくといいと思われる。
- 能登半島地震を踏まえ、災害廃棄物について出題される可能性もある。
- 国土交通白書だけでなく環境白書等もよく読んでおくとよいと考える。
- 上下水道部門・上工水
- 2016年度は水源・浄水場・送配水システムにおける安全で美味しい水の供給困難要因と熊本地震を受けた水道の地震対策、2017年度は水循環基本法・基本計画と水道事業の基盤強化と、タイムリーな問題と普遍的な問題が混在、2018年度は水道事業持続のため事業体が行うべき取組と、原水水質汚濁が進み施設能力も過大となった浄水場更新計画、2019年度は安全・安心な水道水の供給と水道施設の再構築、2020年度は配水区域再編と内外環境変化に対応した浄水施設更新機能強化、2021年度は水道施設監視制御システム整備と広域連携、2022年度は収支維持が厳しい水道事業体における経営戦略改定とコンクリート構造物水道施設の維持管理が出題されたことから、2023年度は災害(特に局所的豪雨)や担い手不足の中での安全安心で美味しい水道水供給の持続、ICT/IoT活用による効率的な水道インフラ管理、都市集約化や過疎化等のまちづくり課題と連携した水道インフラのあり方などについて準備しておくべきと述べていたが、SDGsと水道事業の持続性について出題され、後者は災害や過疎化、維持管理といった問題を踏まえているため予想の範囲内であったといえなくもないが、前者は予想外。
- これらを踏まえると、特に能登半島地震を踏まえて大規模災害直後の水供給(管路や配水池の耐震化などもあるが、近隣自治体と連係した給水バックアップなどのBCPもある)、ICT/IoTなどデジタル技術の活用による効率的な水道インフラ管理(広域連係も含んだ省人化省力化による事業継続の視点)などについて準備しておくべきと思われる。
- 上下水道部門・下水
- 2016年度は農集排の下水道統合判断(仮想事例)と管路施設維持管理、2017年度は地震による下水処理場機能喪失と雨水排除能力不足&老朽化の対応(いずれも仮想事例)、2018年度は浸水災害対策と下水処理場における地域バイオマス受け入れ計画、2019年度は既存施設を活用した高度処理の導入と管渠の老朽化対策、2020年度は気候変動を踏まえた浸水対策と施設や維持管理、事務等の共同化、2021年度は内水ハザードマップとICT活用による下水道事業持続性確保、2022年度は流域下水道処理区への編入と浄化槽汚泥とし尿の共同処理が出題されたことから、2023年度は災害や老朽化、担い手不足高齢化といった中での下水道事業継続、働き方改革やSDGs・環境配慮対応、ICT/IoT活用や人材育成技術継承が重要と述べたが、処理場再構築仮想問題と下水汚泥肥料利用の仮想問題が出題された。前者は予想の範囲内であったが、後者は予想外であった。
- 2024年度は能登半島地震を踏まえた災害対策(施設耐震化だけでなく管路や施設の冗長性なども含む)、人口減少や担い手不足高齢化といった中での下水道事業継続、デジタル技術を活用した効率化と働き方改革、SDGs・環境配慮対応といたことについて理解を深め、仮想事例付与条件の読み取り力も過去問題でトレーニングを積んでおくといいのではないかと思われる。
- 衛生工学部門・廃棄物・資源循環:旧・廃棄物管理
- 2016年度は廃棄物エネ活用と処理広域化、2017年度は資源エネ利活用地域貢献と労災防止、2018年度はエネ回収とAI/IoT活用というように、1問目がエネルギー活用を中心とした出題、2問目が処理施設運営関連の出題が続いていたが、2019年度からは、2019年度が廃棄物処理の地域循環共生圏と超高齢化社会対応、2020年度が廃棄物処理場の今日的な環境課題と廃棄物処理施設の地域防災拠点化、2021年度が災害や感染症の中での廃棄物処理事業継続と廃プラ処理、2022年度が財政状況が厳しい中での廃棄物処理施設更新と循環経済への移行というように、1問は環境の側面からの出題、もう1問は廃棄物処理の拡大的な社会的役割・持続性確保された。
- そして2023年度が廃棄物処理施設における重大事故と集約化で、1問は廃棄物処理の拡大的な社会的役割・持続性確保の問題であったが、もう1問は重大事故で、また少し出題傾向が変化。
- 同様の傾向が続けば、2023年度に述べたのと同じく、1問は廃棄物処理の拡大的な社会的役割・持続性確保が予想される。もう1問は環境の側面からの出題が本命だがSGGsの視点でもう少し広く考えておいたほうがいいかもしれない。環境白書やSDGsの視点で知見・ロジック展開の準備を準備しておくべきで、GHGゼロに向けた再エネ(スマートシティやVPPなども含んで考える)にも注意。能登半島地震の今後の水位によっては災害廃棄物が取り上げられる可能性も否定できない。
- 農業部門・農業農村工学:旧・農業土木
- 2016年度は大区画化と水利施設、2017年度は農地・水利施設(基盤整備全般)とパイプライン、2018年度はため池の防災・減災対策と新たな農業水利システムの構築、2019年度は農業水利施設の効率的保全、大規模都市利用型農業展開ほ場整備計画、2020年度は新たな農業水利システムの構築と災害リスクの高まりへの対応(排水事業におけるポンプ場更新という非常に具体的な仮想事例)、2021年度はストック適正化やスマート農業に対応した水利システム再構築と環境に配慮した農地整備、2022年度は水田農業の構造改革に向けた農地整備(大区画化・汎用化の水深やスマート農業)と農村の防災減災対策が出題されたのを踏まえ、2023年度は農地整備(大区画化・水田汎用化)や水利施設をテーマとしつつ、ICT活用や環境配慮・地域づくりといった広い視点・先進的な視点での記述を求める問題が続くと予想していたが、農業水利施設の維持管理とため池の防災減災について出題され、維持管理はひとまず予想の範囲内ではあったが、災害の出題は予想外であった。
- これを踏まえると、2024年度はスタンダードに農地整備(大区画化・水田汎用化)や水利施設をテーマとしつつ、スマート農業・ICT活用や環境に配慮した農村づくりといった問題が予想される。
- いずれにせよ、問題Ⅰ対策も含めて、農業部門全体を見渡した俯瞰的視野(上記視点に経営の視点も含め、大規模営農や6次産業化などにも言及した視野)での農村活性化・持続性が語れるように情報を収集し、理解・考察を深めておく必要があろう。
- 少なくとも「緑の食料システム戦略」を十分理解しておくことは必須と思われる。
- 応用理学部門・地質
- 2016年度は理解不足による社会問題化と地層処分、2017年度はインフラ整備のICT適用とトランスサイエンス問題、2018年度は地盤情報等の集積と利活用、失敗事例のナレッジマネジメント、2019年度は自然災害への対応とエネルギーミックス、2020年度は地質図の品質向上と防災減災(防災意識社会への転換)、2021年度は工事段階での想定外地盤状況確認防止と火山防災、2022年度は建設発生土の有効利用と不確実性の評価が出題されたことを踏まえ、2023年度は災害関係問題とICT活用や技術継承・人材育成といったところを重視すべきではないかと述べていたが、大規模地震によるインフラ・ライフライン被害と地質情報の3次元化が出題され、総じて予想の範囲内であった。
- これらを踏まえると、1問はデジタル技術活用の問題が続くと予想され、特にDXをしっかり勉強しておくといいのではないかと思われる。
- もう1問は、能登半島地震を踏まえれば災害が出題される可能性は高いものの、2023年度問題が大規模地震によるインフラ・ライフラインへの影響だったので、それ以外の支店になることが考えられる。能登半島地震はこの現行執筆時点で未知の活断層の動きが原因である可能性や断層運動によると思われる広域的な地盤隆起、富山湾で海底地すべりが発生して富山地域の津波原因となった可能性など、これまでの知見の範囲を越えた特異な事例が多く、それゆえに出題しにくいとも思える一方で、地質リスクという切り口での出題はあり得るかなとも思われる。
- 応用理学部門は、特定分野の「技術バカ」「専門博士」になってしまわず、異分野の技術者との協働や総合的視野で複合化した科学技術をマネジメントすべきという資質要求が強いので、専門分野における知見の「深さ」よりも、分野横断的な知見の「広さ」をアピールできるようにするとよい。
- 科学技術白書は必読。
- 環境部門・環境保全計画
- 2016年度は森里川海生態系保全と自動車エネルギー低炭素化対策、2017年度は温暖化ガス削減対策と多様な主体への環境保全普及啓発、2018年度は温暖化ガス排出削減シナリオと生物多様性、2019年度は地域気候変動適応計画と海洋プラスチック問題、2020年度は洋上風力発電所と災害に伴う有害物質漏洩、2021年度はカーボンニュートラル実現策とバイオレメディエーション、2022年度はプラスチック資源循環と化学物質の有害性に関する予防的取組が出題されたことを踏まえ、2023年度は低炭素社会・持続可能性社会と生活環境汚染・循環型社会が要注意と予想していたが、気候変動適応策と循環経済が出題された。持続可能性と循環型社会という点で予想の範囲内であった。
- この数年間の出題傾向から、1問はこれまで同様に低炭素社会・持続可能性社会の中でも低炭素社会(温暖化緩和策、特に再エネや省エネ創エネ・スマートシティ)、もう1問は生活環境汚染(出題テーマが特定分野に限定されたものと思われるのが予想は困難)が要注意と思われる。
- 環境部門の他の科目の過去問題にも目を通しておくこと、環境白書は必読であることも忘れずに。
- 環境部門・自然環境保全
- 2016年度は生物多様性地域戦略策定と自然公園等のインバウンド受け入れ、2017年度は世界自然遺産と探勝歩道のユニバーサルデザイン整備、2018年度は再生可能エネルギーの導入と施設整備、侵略的外来種対策、2019年度はエコツーリズムと生物多様性地域戦略、2020年度は事業に伴う生物多様性への影響最小化と高山植物への衰退対策(いずれも仮想事例)、2021年度はカワウ保護特定計画と国際的プログラムによる地域登録制度活用計画(いずれも仮想事例)、2022年度は「出水ツルの越冬地」を取り上げた越冬地分散と製造業における生物多様性保全(仮想問題)が出題されたのを踏まえ、2023年度は自然公園運営上の問題が要注意と予想していたところ、都市公園行けにおけるかいぼりによる生態系再生と低線量土壌の自然公園事業再生利用が出題され、かなり予想外。特に低線量土壌は自然環境保全の範疇外にも思われ適切性に疑問もある。
- 2024年度は、自然公園運営上の問題が3年間出題されなかったものの、やはり王道的ジャンルなのでこれを最優先とする必要があると思われる。保全対象を高山植物というように絞り込むこともあると思われるし、問題の切り口として新型コロナ明けのインバウンドを含むオーバーユース(特に富士山)のようなものも考えておいたほうがいいと思われる。さらに解決の方向性としてICT活用や人材育成、制度整備などがあろう。こういった広い視野から考察するトレーニングを積んでおくことが必要と思われる。
- 基本的には仮想事例が出題されると思っておいたほうがいい。2021年度のカワウ、2022年度の出水ツル、2023年度のかいぼりのように条件を絞り込んでくることも十分考えられるので、問題文での付与条件をよく読んで、題意から外れないように注意。
- 環境部門の他の科目(特に環境保全計画)の過去問題にも目を通しておくこと、環境白書は必読であることを忘れずに。