My Note 手動踏切という化石
2005.3.16

「報道ステーション」の冒頭で足立区の踏切事故を取り上げ、遮断機が上がったのでわたり始めたら電車が来たという「管理体制」について古舘伊知郎が「信じられません」と言っていたが、私には今どき係員が手動で遮断機を上げる踏切があることのほうがよほど信じられなかった。
それもド田舎ならともかく、東京のそれも足立区なのだから、びっくりしてしまった。
自動で遮断機が動作する踏切にするには様々な経費がかかり、ゆえに係員の人件費を考えても手動のほうが安いということだったのでは?と思うのだが、その判断に「経費」のほかに「リスク」もきちんと含まれていたのかな、という疑問がわく。
今は環境保全その他様々なものを貨幣換算してコスト判断するので、リスクの費用便益評価も必要なのではないかなあと思ったところだ。

もう一つ、自動化には様々な経費がかかるのだと仮定して、それはどうしてかということであるが、
 @現時点での運用体制を前提としたインフラ整備がなされており、運用の一部分だけを改善すればいいというものではなくて、複雑に絡み合ったシステム全体に波及してしまうため改良に係る費用が膨大になってしまう。
 A改良のためには運用を一時ストップあるいは縮小せざるをえず、そのためのデメリットが膨大
などであることが多い。
鉄道絡みでは、改札の自動化や高架化工事に伴い出現した「開かずの踏み切り」「長大踏切」などであったかと思う。
このため、東京では旧来のシステムからの更新が遅れる傾向にある。
自動改札などは地方にかなり普及した時点でも東京だけが「キップ切り」をしていた。
もしかすると、もはや日本で数少ないであろう「手動踏切」はそういった理由で東京だけに化石のように残っているのかもしれないなあ・・・・と思ったのである。

ところで、旧来のままではさすがに不便だ、あるいは経費がかかるというものは、少々のデメリットも乗り越えて改善されていくのだが、著しい不便は伴わないものはそのまま残っていく。
東海道新幹線は、日本で一番「火花を散らす」新幹線である。一番最初にできたので、架線のところの火花を抑える技術が未熟だったためという。確かに夜見ると、東海道新幹線はちょっとびっくりするくらい火花を散らして走っている。上越新幹線はずっと「静か」だった。
火花が散るということは架線なりパンタグラフなりの消耗も激しいからメンテコストもかかるはずだが、取り替える費用に比べたら微々たる物だし、架線架け替えとなると大変な騒ぎになるのだろうから、手をつけていないのであろうと思う。

我々の身の回りのインフラには、そういったものはいっぱい潜んでいるんだろうなあということに気がついた事故であった。


脱線しますが、うちの会社の出張旅費精算書類に「車馬賃」というのがあります。
要は近距離の電車賃、バス賃を指しているのですが、今時馬に乗って移動なんて娯楽施設をのぞいて考えられないですよね。
単なる名称ですので、特に残しておいても何の実害もありません。「名前」で化石のように残っているものは結構あるような気がしています。
Posted by 井戸端 at 2005年03月18日 23:56
うちの会社の計測機器の中に「電気伝導度計」というのがありますが、「トラックやオートバイの荷台に乗せないでください」と注意書きがあります。うーん、オートバイの荷台ときたか・・・・
そういえば昔、私の父は、スーパーカブの荷台に竹で編んだカゴを載せて、そこに私を入れて走っていました。父は高校教師だったんですが・・・・
ある意味いい時代だったということで。またまた脱線。

Posted by APEC at 2005年03月19日 10:11


はじめまして。
私は、あの辺りが仕事のエリアになっていて、実際東武伊勢崎線でも通勤している人間がいるので、当該の踏切について聞きました。すると、
1.あの踏切は東京都内でも「開かずの踏切」としてワースト4に入るほどひどいものだったこと。
2.手動踏切を操作する職員は開かずの踏切にイライラする利用者に時に罵声を浴びせられることも多かったこと。
あの職員の方は、そんな状況下、あのハンドルを回していたそうです。
職員の方を見ていると「あの仕事は大変だ」と思うと、お話しておりました。
では、失礼します。

Posted by えんじ at 2005年03月19日 13:42


わかります。道路舗装修繕などで幹線道路を片側通行にしたときの誘導員みたいなものですね。道路管理の出先機関にも、ものすごい電話が入ってくるそうで、そこはお役所、律儀に記録してあるんですね。「今から若いモン連れて乗り込む」とか「何を言っているのか判読不能」など、笑えない記録がいっぱいあります。
それならなおのこと、なぜ手動なんでしょう。人為ミスで下げ忘れるとか上げちゃったとかいうことは当然ありえるわけですから、やはり自動化すべきだったと思います。最低でも誤操作防止の機構をつける(列車接近中にはハンドルを回せないようにするなど)とか。

Posted by APEC at 2005年03月19日 14:14


鉄道の仕事が多い会社です。(私はその部署ではないですが)
自動か手動か、というかその交差場所と線路容量、通過本数からいってそもそも踏切としては厳しい場所と推察します。
社内で少し離しただけなのでもちろん検証されたことではないですが、あそこで自動化をすると、安全側×安全側・・ということで踏切は全然開かないのではという推測に至っています。自動遮断機は閉塞区間との絡みで結構早くに閉まります。最寄駅を通過する準急が走っていると聞きましたが(ぶつかった列車もそうでしたっけ)、そのスピードから考えると閉塞区間もさもありなんという距離にすると結構前から閉まってしまいます。そこを人間が加減できる(というと「いい加減」とみられるので表現が難しいですが、まだ機械では難しい高度な判断をするという意味で)という点で実は手動踏切は大都市のいっぱい列車が通過することにあったりします。
APECさんの「やはり自動化すべき」という書きっぷりは機械>人間というようにも読めますが、確かに正確さではその通りですが、総合的な判断ではまだ人間>機械の部分はあるように思えます。
というよりもだからこその鉄道の高架化や地下化、横断歩道橋・地下道の設置なのであり、その間の不便益は享受しなければならない、と思うのですが、説明が悪いためか、「高架工事で開かずの踏切、大問題!」なんて指摘されると、じゃ平面踏切でのリスクを、ということになるのかも知れません。
本文にあるAPECさんの指摘はその通りだと思います。そもそもリスクは顕在化しないと真値かどうかわからず、過大対応、過小対応があること、正常化の偏見による慣性力があること、などホント難しいですね。

Posted by まてぃ at 2005年03月19日 16:08


なるほど!やっと合点がいきました。まてぃさん、どうもありがとうございました。
機械の融通の利かなさを人間がカバーしているということですね。
ということは、悪意はないことをお断りした上で悪い言葉を使わせてもらえば、「機械の安全ロックを外した状態でマニュアル運転」しているわけですね。
利用者ニーズに応えれば運行本数が増える→軌道の導通で動作する自動踏切では安全側に作動しすぎて踏切が空かなくなる→しかし本数は減らせない→安全ロックを外すという図式ですね。
「正論」を言ってしまえば、そこに「利便性確保のため安全性を落としています」という情報提供と納得ずくで利用するインフォームドコンセント・・・・という話になるのでしょうが、そんなインフォームドコンセントが成立するとも思えませんね。利便性も安全も、全て鉄道会社の責任でやれ!という身勝手な大衆が多いと思われます。マスコミなどはその代表でしょうね。
結果的に、こういった事故を掘り下げることが高架化の必要性を高めることになり、予算措置がなされるという皮肉な話になっていくのでしょうか。

ともあれ、疑問は氷解しました。まてぃさんに改めて御礼を申し上げます。
よし、今夜さっそく息子に訳知り顔で教えて自慢してやろう。^^;

Posted by APEC at 2005年03月19日 17:04


お礼なんてとんでもないです。今後とも仲良くしてやって下さい...。
2点。
化石・遺物というわけではない、ということですね。古くて新しい問題、ということでの「化石」という表現はわかりますが。
「環境保全その他様々なものを貨幣換算してコスト判断するので、リスクの費用便益評価も必要」ということですが、やるところは当然やっていますし、今後も定量化が進められていくでしょう。ただし、私はB/C屋さんですが定量化対象が全てではない、ということを念頭に置いてこの評価指標をみて頂きたいと思います。特にリスクは想定に乗らないからリスクですし。社会資本の評価の大家?の小林先生のところにたまに遊びに行きますが、先生がおっしゃるには「定量化評価は評価の一部。人間が総合的に判断している部分の方が大事。ただししっかり考えること。」とのこと。事業主体も世論とかいろいろ数字にできないことも含めて判断して投資を決定していると思います。費用便益分析万能・定量化だけでなく「しっかり考えて」判断するということではないでしょうか。
少し正確に。「動踏切は大都市のいっぱい列車が通過することにあったりします。」と書きましたが、具体には、手動式は59カ所、事故が起きた東武伊勢崎線のように通常列車が通る線路にある踏切は少なく、ほとんどは車両基地や企業の工場などへの引き込み線にあるとのことです。ただし、手動式のうち、朝夕のピーク時で1時間あたり40分以上遮断される「開かずの踏切」は東武、京成、名鉄の3社で計6カ所あるとのことです。
以下、思い出話。
私は名古屋に住んでいたことがあるのですが、名鉄の神宮前駅近くに「開かずの踏切」があります。ここの踏切は、JR東海道本線と名鉄名古屋本線の並走区間で、ピーク時間帯は両線上下方向ともひっきりなしに電車が通過していきます。特に名鉄はその時間になると神宮前駅を1分間2〜3本電車が出て行きます(名鉄はこの区間の本線に常滑線や犬山線などほとんどの路線が乗ってしまうため)。
そのため、閉塞時間10分なんて事はざらにあります。
それでは誰も動けないので、手前・中央分離帯(2つ)・向こうの4つある遮断機の内、手動で電車が無い方を半分だけ開いて、歩行者と自転車は中央の待避スペースまで行けるように運用しています。この半開けテクニックはすごいなぁ、と思ったことを今思い出しました。

Posted by まてぃ at 2005年03月19日 18:24


踏切の思い出話です。
昔小田急線の千歳船橋駅を使っていました。
今でこそ高架になっていますが、当時は地上を走っていて、駅のすぐ横に踏切がありました。
この踏切がやはり朝のラッシュ時にはなかなか開かず、踏切くぐりが常態化していました。踏切の真横に止まっている普通電車の運転手が自分の存在を意識していることを横目で確認しつつ、だーっと渡るわけです。
小田急線は朝は急行もノロノロ運転だったので、こんなことができたのでしょう。

Posted by 井戸端 at 2005年03月19日 22:36


2005.3.16 ブログに掲載、それを受けてレス